▼ あの日の忘れ物 ∵
唐突に、再び電車がホームに入って来た。
今度は、俺達の後ろ側だ。
俺達を迎えに来たのだろうか。
俺は、逝く事ができるのだろうか?
振り返ると、がいこつが手を振っていた。
電車の、今まさに閉じようとしている扉の向こうで。
俺は手を伸ばした。
待てよ、おい。
お前まで逝ってしまうのか?
俺をまた一人にするのか?
また一人にされるのか?
いやだ!!
「俺も乗せてくれ!」
俺は必死に何度も何度もそう叫びながら、俺を締め出そうとする扉に喰い付いた。
どんなに引っ張っても、手を突っ込んでも足を突っ込んでも、頑なに扉は閉じていく。
がいこつは泣いていた。
むき出しのままの目玉から、くぼんだ頬へと流れていた。
いつものように歯を鳴らし、細い指で何度も何度も頬を伝う涙を拭っていた。
がいこつは知っていた。
忘れ物を見つけられなかった俺は、電車には乗れないのだと。
扉が俺を締め出す。
prev / next