▼ あの日の忘れ物 ∵
若草色の便箋に書かれた文字は、女らしい、丸っこい字だった。
『ごめんね、小太郎。
たくさんたくさん探したのだけれど、小太郎の足は見つかりませんでした。
小太郎が悪者に連れ去られてしまってから、ママは毎日泣いていました。
ママはどうしてあの時小太郎の手を離してしまったのか……。
ずっとずっと悔やんで、悪者を憎みました。
でも悪者は、しっかりと捕まりました。
ママから大事な小太郎を取って行った憎い人を、パパもママも絶対に許しません。
小太郎が逝ってしまったという知らせを聞いて、ママは死のうとしました。
だけれど、小太郎の小さな服や写真を見るたびに、ママは生きて、
と言われているような気がして、ママは死ぬことができなかったよ。
ありがとう、小太郎。
ママはきっと、良いママじゃなかったね。
言うことを聞かないからって、何度も怒鳴ってごめんね。
ごめんね、小太郎。
ママは足を見つけてあげられなかったの。
だけど、これだけはあなたに贈りたかったのよ。
大好きな小太郎へ
あなたのパパとママより』
小太郎はすべて読み終わると、小さな紙を手にぎゅっと握って、もう一度箱を開けた。
中に入っていたのは、新品の子供靴だった。
子供の頃誰もが憧れる、流行のヒーローの絵柄だ。
「かぁっこいい!」
小太郎は嬉しそうに靴に汚れた頬を擦りつけて、涙を流した。
それが嬉し涙なのか、悲しい涙なのか、俺にはどちらなのかわからなかったが、ただ込み上げてくるものを、押さえ切れなくて。
がいこつが俺の肩を慰めるように叩いている。
俺は頬を伝う熱いものを必死に押さえようとしたが、がいこつがそんな風に俺をなだめるから、止める事などできなかった。
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