▼ あの日の忘れ物 ∵
小太郎とはすぐに慣れたけれど、がいこつには、そう簡単には慣れなかった。
小さな箱を大事そうに抱え、探し物を見つけようと、むき出しの目玉をあちこちにすばやく走らせる。
時には電信柱の付け根や、人の家の郵便ポストの中まで覗くものだから、「そんな所に足や人間が入っていたら、気持ち悪いだろ」と突っ込んでやりたくもなったが、その頃の俺には、がいこつに突っ込みを入れるほどの度胸など、まだなかった。
俺達は小太郎を挟んで、また当てもなく、適当にあの世の町をぶらぶらと歩いていた。
がいこつを警戒して、骨が鳴るたびに青ざめる俺を知ってか知らずか、小太郎は相変わらずニコニコと笑顔を張りつかせ、ない足で元気良く地面を蹴り上げながら、小学生の頃に音楽の教科書の最後あたりに乗っていた、遠足の歌なんかを歌っていた。
がいこつは何度も何度もくつを脱いでしまい、気づくのも遅いから、何度も引き返した。
まあ、あれだけ細い足だったら、くつがぴったり合う、なんてことないんだろうな。
俺達の中でまず最初に見つかりそうなものは、このがいこつの荷物の届け先だろう。
いや、でもがいこつは死んでここに来たんだろう? だったら、現世に戻らないといけないんじゃないのか?
待てよ。だったら何でがいこつは「この家に届け物を」と言ったんだ?
能天気な二人をよそに、俺の頭には疑問が次々に湧き出てくる。
小太郎も小太郎だ、足なんて探しても、ここにはないだろうに。
俺も俺だ。名前なんてなくても、別に不便じゃない。
ここは死後の世界だし。
「ねえ、どこに行くの?」
俺がようやくがいこつになれてきた頃、小太郎が突然座り込み、尤もな事を問いかけてきた。
不機嫌そうに唇を尖らせ、ない足を辛そうにさすり、体を前後に揺らす。
さっきの元気は、どこへ行ったのか……まあ、まだ小さい子供には、俺たちの歩幅が自分の二倍ほどになるんだろうな。疲れるわけだ。
俺達は足を止め、ほんの少しの間、皆無言で考えた。
本当に行き先がない旅だ。目的は決まっているけど、一片の手がかりさえない。
人に聞いてみようか? いや、ここに居るのは皆死人だ。
あれから何人かに遭遇したけれど、言葉を話している奴らを見たことがない。
何度も思うけど、変な世界だな。
「わかりませんねぇ」
がいこつが首を鳴らし、先に答えた。
何の慰めもない返答に、小太郎はガックリと沈み込む。
「やだなぁ、もう疲れちゃったよ」
ああ、確かに疲れた。
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