Short Novel | ナノ


▼ あの日の忘れ物 

 むきだしの目玉が、すぐにすばやくあちこちへ走らされた。
「それで、ここはどこで?」
 がいこつが訊く。
「死後の世界」
 小太郎が答えた。
「へえ、じゃあここは地獄ですかい、天国ですかい」
「ううん、どちらでもないよ。そこに行く電車は出ちゃったよ」
 小太郎が言う。するとがいこつはカツカツと歯を震わせ、納得したように頷いた。
「乗り遅れましたねぇ」
 そして、そう言う。
 二人は、なぜさも同然のように、そんな会話ができるのだろうか?
 俺一人が何も知らないようで、少し嫌な気分になった。
「電車に乗るの?」
 小太郎が、がいこつに首を傾げる。
 がいこつは細い首を横に振り、手に持った箱を軽く持ち上げた。
「まあ、この荷物を本人に届けないと、行けませんねぇ」
 どうやら、このがいこつは見かけによらず几帳面らしい。
「じゃあ一緒に探しに行こう。ぼくらも探し物があるんだ」
「ご一緒して良いんで?」
「いいよ。ねえ、お兄ちゃん?」
「……うん」

 不気味ながいこつが仲間に入り、俺達の旅は、まだちょっと続きそうだ。


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