▼ !!! NIGHTMARE OF HALLOWEEN !!! ∵
そうこうしているうちに、アランもなんとなくおれらに心を開いてくれたみたいだ。おれたちにそれぞれ菓子をくれて(セイとやらにはバスケットごと奪い取られていた)、一緒に家を回ろうということになった。
ロビンは満足そうだった。アルベールもまんざらでもないらしく、もらったバッグにお菓子を詰めて大人しくついてくる。というか、あいつが歩くと道行く女性が歓声をあげるたびに自然とバッグが膨らんでいった。
おれたちが訪ねて行ったのは、違う階だけど似たような扉の部屋だった。部屋の番号の下に、“ハリソン”と金文字で書かれたプレートが下がっている。
今度ばかりは、ロビンより先にセイが飛び出した。
「トリックオアトリーーート! アンドリュー! 菓子よこせよなぁぁ!」
ずっとこの調子でドアをぶち破ってきたんだろうか。豪快なかけ声と同時にドアを蹴破るかと思ったけど、部屋の住人のほうがその点は素早かった。
「遅かったな、セイ。どっかで捕まって、トマトジュースでもひっかけてるのかと思ったよ」
さっと扉を開け、ニヤニヤ声で出てきたのは、アランより少し背の高い、顔の整った男だった。
アルベールを初めて見たとき、人形みたいだと思ったけど、こっちは人間らしい顔のいいやつだ。どっかに真っ白い城を持つ王子だって言われても、すんなり受け入れられそうだ。もっとも現実にはそんなお似合いの王子はそういないけどな。
「けっ、ダーラのところは最後だよ。しめにとびきりのチョコレートケーキを焼くのは、毎年恒例だかんな」
セイは例のごとくニカッと笑って、手を突き出した。ロビンもその隣で便乗しようとしている。
おれたちを見つけて、アンドリューは青空のようなきれいな目を丸くした。そして微笑む様は、まさにあの受付の人をメロメロにできそうな威力があった。
「やぁ、新入りかい? アンダーグラウンドへようこそ。ハッピーハロウィン!」
アンドリューはおれたちにそれぞれチョコレート菓子をくれた。今までもらった中で、一番うまそうな手作りのチョコバーだ。砂糖でアイシングがしてあって、ジャック・オー・ランタンとハッピーハロウィンの文字がきらきらしている。
おれは思わず口元を緩め、それを特別にズボンのポケットにおさめた。帰るとき、もしバッグを落としても、これは持って帰れるように。
ふと顔を上げると、貪欲なロビンに追加の菓子をやるアンドリューの後ろで、こそっと人影が動いたのがわかった。
部屋の中にもう一人いる。たぶん、女の子だ。妹かな? 金髪で、少し気の強そうな目をしているけれど、もじもじと落ち着かない様子でこちらを見ている。
だけど、その子に対面することはなく、おれたちは次の家に移動した。
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