Short Novel | ナノ


▼ !!! NIGHTMARE OF HALLOWEEN !!! 

「さぁさ、これをどうぞ。今焼きあがったばかりの、あつあつのフルーツケーキよ」
 おばさんはそう言って、丁寧にラッピングされたフルーツケーキをくれた。ロビンには緑のリボンの、アルベールには紫のリボンの、そしておれには赤いリボンで結んだケーキだ。
 トリック・オア・トリートなんて、とうの昔に卒業していたはずだけど、年をとっても、この日にお菓子をもらえるのは嬉しいものだな……なんて、おれはじじいみたいなことをふと考えた。
 その間、ロビンは何やらおばさんと親しげに会話をしていた。おれはアルベールがケーキの包みを開けて味見するのを見ながら、耳は会話に傾けた。
「あなたたち、お菓子を入れる袋を持っていないの? だったら、これを使うといいわ。うちの息子たちにまとめて買ったのだけど、あの子たちったら、もっと大きな袋をくれって言うんだもの」
 おばさんはそう言って、おれたち人数分の袋をくれた。それはつやつやした素材でできていて、紙袋みたいな形をしているけれど、皮のようにぶ厚くもなく、見たことのないぺらぺらしたやつだった。黒の背景に、ジャック・オー・ランタンがでかでかと印刷されている。
「あなたち、もうキヨハルさんにはお会いしたの?」
「いいえ。でも、今から行ってきます」
「そう。しっかりお祈りしてらっしゃいね。今日はあそこにも、お菓子がたくさん積んであるわ」
 その会話を最後に、おばさんにお礼と別れを告げ、おれたちはその先に向かった。
 ここがロビンの目的の場所じゃなかったのか? おれは不満げに後にした家を振り返ったが、うりふたつの双子の少年が窓からこっちを怪しそうに眺めて、ベーッと舌を出していただけだった。
 それに、あのおばさんとの受け答え。ロビンは淡々と当り前のように会話していたけれど、でもおばさんはロビンを知らないようだった。ということは、ロビンが一方的に知ってるってことだよな。それって知り合いっていうか?
「なぁ、キヨハルって人が、おまえの知り合いなの?」
 フルーツケーキをもらったペラペラの変な袋に入れ、俺は問いかけた。実は腹が減っていたのか、以外にも好物なのか、アルベールはもうもくもくとケーキをたいらげている。
「違うよぉ。キヨハルさんには会いに行かないよ。僕らはこの世界の住人じゃないからね。会わないほうがいいんだよ」
 おまけにもらったキャンディーを口に放り込みながら、ロビンが答えた。鼻歌歌っていやがる。
「それじゃあ、おまえの知り合いって誰だよ? さっきの人じゃないだろ」
「うん。いい匂いがしたから寄っただけ♪」
 この発言にまたカチンときた。が、今は順調に進めているような気がするから、げんこつはぐっとガマンだ。
 次だ、次。今度こそロビンの知り合いに会って、菓子ふんだくって逃げんだ。もとの世界に!
 またしばらく、おれたちはロビンの行くままに進んでいった。時々すれ違う人からお菓子をもらったりするけど、おれは意地でも「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」なんて子供みたいな文句、言うことはなかった。
 アルベールは、最後尾で相変わらずもくもくと菓子を食っている。ある意味、これでいいんだ。だってあいつの体、がいこつの標本でも見ているみたいなんだもんな……。



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