▼ 背中と背中 ∵
「電車なんて乗るんだ!」
「そう、死んだ種類ごとに車両が別れてんだ。お前、なんだろうな」
子供じみた表情を輝かせる天詩を指差し、俺はにやりとする。
「痛くないほうがいいなぁ」
「人間らしい答えだな」
「人間だもんね」
……。
「そうだな」
俺は起き上がり、天詩のほうへ向き直った。
そして相変わらずのマヌケ面を見て、天詩に問いかける。
「やりたいこととか、思い残したことはないのか?」
世界のすべての出来事には意味があるって、誰かが言っていた。
こうやって天詩が俺を見たのも、何かの縁だろう。
少しぐらい、待っててやろうと、思った。
「そうだなぁ……」
俺の提案に、天詩再び仰向けになり、雲のかぶさった太陽を見上げた。
ゆっくりと太陽は雲から顔を出し、再び俺たちをジリジリ照りつける。
「紙とペンがあればなぁ」
天詩は照りつける太陽に目を細め、ポツリと呟いた。
また意味不明なことを言いやがって。と首を傾げる俺に、天詩は頷いた。
「小説」
天詩が目を細め、少し照れくさそうに笑う。
「趣味程度だけどね。こんな面白いこと書けずに死ぬなんて、ちょっといやだな」
「……書けよ。待っててやるからさ」
ただ一言、それを聞くと、天詩は両手を春の太陽に向かって押し上げた。
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