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 十秒――それがぼくにとって、こんなに短く感じたことは、あっただろうか。
 ぼくはヴォルトに言われた通り、マルシェさんに援護を頼むために、センターへ向かったはずだった。
 しかし、それほどの力ももう、ぼくには残っていなかったんだ。
 ぼくはセンターのほんの手前で、すべてを使い切ってしまった。

 これほどまでに体が軽いと思うことは、今までになかった。気持ちが悪い。
 ぼくは喉の奥から込み上げてくるような痛みに耐えながら、必死に地面に手を這わせた。

「くそぉ……っ!」

 身体が熱い……! 何もかもを吐き出してしまいそうな気分だ。

 もう少し……もう少しでいいのに……!

 どうしてぼくにはこんなに力がないんだ! どうしてぼくはこんなに弱いんだ!

 いつも思ってた。いつかヴォルトのように、強くなれればって。

 いつかシオンのように、ひたむきに大切なものを守っていければって……!

 今のぼくには大切な友人さえ――大切な家族さえも守れる力がないのか……――!

「アラン!」
 その時、大勢の足音と共に、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。
 滑り込むように駆けてきたセイが、ぼくの手を取る。
 次にメリサがぼくの手前で崩れ落ち、青い瞳からボロボロと涙を零した。
 ぼくの手を握るセイの手が、小刻みに震えている。
 あとは大勢の人がざわめく声……メリサの青い瞳だけがわかる……。
 あとは……ここは……何……――
「お前に足りないものは、人を頼る心だな」
 その時、誰かがぼくの頭を軽く叩き、低い声で言った。
 タバコの匂い……どこかで……そう……ここはどこだ……?
「……マルシェさ……」
 ぼくが小さく呟いたその時、喉の奥から熱いものが一気に込み上げてきた。
 ぼくから漏れ出した液体が吐き出され、ぼくは思わず口をつぐむ。
 誰かがぼくに向かって、「話すな!」と叫んだ。
 喉が熱い……身体が熱い……!
 目の前のものすべてが溶けていきそうだ……ぼくも……みんなも……――
「い……かなきゃ……いけないんだ……ッ! ヴォ……ルトが……壊さ……」
 薄れる意識の中で、自分が必死にそう口にしていた。
 かろうじて身体が動くたびに、体の中を灼熱の炎に焼かれているような感覚が襲ってくる。
 苦しい、熱い――
 すべてが焼けそうだ――……。
「よくやった……アラン君。あとは僕らにまかせてよ」
 妙に、懐かしい声が聞こえた。
 メリサの青い瞳が、高くを見上げる。
「セイ!」
 アンドリューの声に反応し、セイが素早く立ち上がった。
 そしてメリサも立ち上がり、誰もがアンドリューの次の言葉を待つ。
 深く、長い呼吸が聞こえ、そして急に雰囲気が一変した。
「みんな、少しでも力を貸せ。僕らの家に勝手に踏み込んでくる無礼な奴らを、叩き出すんだ!」
 アンドリューが張り上げた声と共に、爆発的な雄叫びが当たりに響き渡った。
 そして次々に、ぼくの周りから気配が消えていく。
 みんなが居る……みんな行ったんだ……
 ダメだ、殺されてしまう……ぼくはみんなを……守らないと……!
「動くな、バカ」
 何とか起き上がろうとしたぼくを、マルシェさんが踏みつけた。
 メリサが小さく悲鳴をあげて、「何するのよ!」とマルシェさんに突っかかる。
「安心しろ、あいつは本当のキヨハルの後継者だからな」
 倒れたぼくに、マルシェさんが呟くように言った。
 本当の……後継者……?

 体中の熱が薄れ、徐々に目の前がぼやけていく。

 声が聞こえる……みんなの声が……

 ぼくが守らないと……ヴォルトを……みんなを……守らないと……――



 背後で奮戦するたくさんの気配を感じながら、ぼくは、意識を失った。




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