さぁはじめようか


「で?夢からは覚めたのか?」
「まぁ、そう、だな」

わたしは今ベッドの上にいる。正確に言うとわたし達、だ。つまり、自分の他にもう一人。わたしを組み敷いている大きな赤い犬が一匹。その目にゆらゆらと揺れる怒りを隠しもせずにわたしを見下ろしている。草食動物にでもなった気分だ。そんなわたしはというとなんだか顔面が台風が去ったあとのようにぐちゃぐちゃ。
さてどうしたものか。明らかに先程とは違う汗が、自分の背中を伝うのを感じていた。

「何か言いたいことはあるか?」

何を言おうかぐるぐる悩みながら、時間を稼ぐ為あーだのうーだの実に情けない声をあげる。だが、視線だけは目の前の男から離せなかった。

「あー…頬、痛いか?」
「あったり前だこの馬鹿が!」

いつものように馬鹿って言う方がなんたらなんて言い返そうもんなら更に怒られそうだからやめておく。
今から数時間前、わたしはヒロトに酒を勧められた。そしてたまたま通りがかった茂人をも巻き込み、3人での酒盛りが始まった。無礼講だと胃にアルコールをガンガン流し込んで、わたしは気持ちよく酔って、気がついた頃には珍しくべろんべろんになってた。今日という日は何もかも無礼講ですまされる気がした。素晴らしい日だ。毎日正月だといい。わたしは上機嫌で楽しく飲んで楽しく酔っ払っていた。完全に出来上がっていたがそれはまあいいんだ。そこまでは問題なかった。
そうやって意識が飛んだり飛ばなかったりした頃、どうやらわたしは人肌というか晴矢がというか…まぁ恋しくなってしまったらしい。ここもまあいいんだ。なんだ風介も案外可愛いとこあるじゃねぇかはははで終わるだろう。なんてったってこのクールビューティーなわたしだからな。

そこで、だ。話は戻って、酔ったわたしは茂人を押し倒した。そんでキスをした。挨拶程度の軽ーいやつじゃなくて、熱烈なベロちゅう。キスの合間に、晴矢、晴矢って名前を呼んだ気がする。最悪だ。お互いから香る蒸せるようなアルコールの匂いに更に興奮した。ここはもう最悪だ。消えたい。(ちなみにヒロトは笑って見ていた。こいつは絶対シラフだった)

そこをタイミングがいいのか悪いのか丁度帰ってきた晴矢に見つかった。あんまり覚えていないけど多分、びっくりはしてた、と思う。
大声で何か言いながらわたしの腕を掴む晴矢。わたしはそれ感じるが先に晴矢の手を必死で振り払って、嫌だ嫌だと茂人に抱きついた。その時のわたしの状態といえば、上半身は申し訳程度にシャツを羽織って、下は…まあ。まあいわゆる半裸だった。だからと言って間違ってもどっかにナニが入ってたりはしない。これはよかった。本当によかった。全然よくはないけどとにかくよかった。

まあ酔っていたのもあり、当然ながらわたしが晴矢に力で勝てる筈もなく、そのまま引きずられるように部屋を連れ出され、(ちなみにヒロトは仲良くねーなんて言いながら終始笑顔だった。あとで絶対蹴る。)ベッドに投げ飛ばされ、晴矢に上にのし掛かられたわたしは何かわーわー叫んだ気がする。まあ、多分この変でわんわん泣き出したんだろう。そんで今のこの酷い有り様へと繋がるわけで。
あ、一つ忘れていた。わたしは晴矢を殴った。一発な、一発。何か…それが結構ガチだったらしく…物凄い音とさすがにやってしまった感で一気に冷水を浴びせられたように現実に戻って来た。そしてバラバラだった記憶がパズルのように一つ一つ繋がり今に至る。沈黙が痛い。それよりも、頭上で捕まれギリギリと音を立てている両手首が痛い。

「は、るや…っ、痛い」
「だろうなぁ。痛いようにやってんだから」

そう言った晴矢は至極楽しそうな笑みを浮かべていたが、目が全く笑っていなかった。その晴矢の手が、わたしの中途半端に熱を持った自身を強く握った。

「ん、やっ」
「お楽しみなとこ邪魔されて残念だったなぁ風介」

そのまま下着ごとハーフパンツを抜き取られ、足を開かされ驚く間もなく後孔に指を入れられた。数秒遅れてそのことを理解し、激しい痛みが襲う。

「…ったい、抜け!いやだ!」
「るっせえな」
「やだ!やだやだやだ!抜け!」

いつの間にかわたしの視界はまた涙で霞んでいた。晴矢が笑ってるのか、怒っているのか、もうわからない。恐い。痛い。苦しい。晴矢、晴矢、わたしは名前を呼び続けた。ろくに慣らしもしないまま挿入され、逃げることも許されないまま腰を捕まれ強く揺さぶられて、晴矢の熱がわたしの中で弾けても、最後まで晴矢がわたしの名前を呼ぶことはなかった。それがとても悲しかった。わたしはまたぼろぼろ泣いた。

「ひっ、く…、うあ…あ…」
「まだ勃ってんぞ。すげ、えっろい身体」
「くっ、やだ、も、やだ、抜け」

わたしの声なんかに耳を貸さず、晴矢がまた動き出す。そのあまりの熱さにずるずるに解けた私の中で晴矢のモノがまた硬度を増し、更に角度を変えたことによって空気が入り込んだ。ぐぽっと嫌な音を立てて後孔から白濁が溢れ出し、ゆっくりと太股を伝っていった。

「うーっ、あっ、あっ、あっ、ん」
「最近ヤってなかったからな。溜まってたんだろ?」
「やだ、やだ、はる、やっ、抜いて、抜いて」
「おら、責任とって、やるよっ!」
「やぁーっ、あっ、あっ、うあっ」
「姫はじめしようぜ、風介」

揺さぶられる度頭がガンガンと痛む。そういえば酒を飲んだのだった。無礼講だとかもうどうでもいい。毎日正月だといいなんてよく言ったものだ。取り消そう。いつもの平日が一番いい。私は目の前の完全に理性を失った晴矢が、早く元に戻ることを祈って、力を無くしだらりと投げ出された自分の指先を眺めた。

そのまま、わたしは何度か意識を飛ばしていたらしい。意識が浮上したはいいが状況はあまり変わらず、ぐちゃぐちゃになったわたしの左足は晴矢の肩にかけられている。だがさっきと違い、風介、風介、と何度もわたしを呼ぶ声がした。すきだ、と晴矢は言った。

そのまま何度も何度も奥を強く突かれ気持ちの悪い声が漏れた。それはすっかり枯れてしまっていたが、晴矢はこんな声にも欲情してくれるのだろうか。わたしの頬に伝った涙の跡を、晴矢の熱い舌が辿る。熱に浮かされぼんやりとした頭で、とりあえず次に目が覚めたら茂人に謝ろうと思いながら、再び目を閉じた。

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