眠らずに夢を見ることは難しい


思えばすきだなんて一度だって言ったことなかった。だけど俺達は所詮恋人同士というやつで、そういったお付き合いってやつをしていた。そんな中あいつは遠くに行ってしまった。正確に言えば、その後。そのひたすらに甘ったるい響きの、恋人同士って関係が終わってからの、後。ちなみにその遠くとやらがどれくらい遠いかっていうと今の俺なんかじゃどうしたって行けないようなとおいとこ。噂じゃ飛行機で半日もかかるらしい。噂で、っていうのは、本人から直接聞いて教えてもらったわけじゃないから。あいつとそのことについて話なんかしなかった。それにしても半日、て、そりゃちょっとすげえな。考えただけで尻痛ぇ。

でも、俺はもっともっと遠くにいかなきゃいけない。あいつがどう頑張ったってこれない、ずっとずっと遠いとこ。あいつなら「一緒に行く」って言いそうな気もするけど、それは絶対だめ。何が何でも俺が止める。

あいつの留学の話はずっと前から聞いてたし知ってた。だからそれがあいつの昔からの夢だったことも。そんなあいつを誇りに思うし、応援したいと思うのは、当然なんだ。惚れた相手なのだから。こう見えて俺は一目惚れだった。だからあいつが俺のこと知る前から俺はあいつのこと知ってた。俺だって、やっぱりすきな奴のことだからそれなりに調べたりした。知ろうとした。あいつがどんな奴なのかって。まあ本人に言ったことは一度もないけど。そんで、それはこれからも。
まるで世界が違う俺達がこういう関係になったのは、やっぱりどう考えてもおかしいと思う。神様が何もなかった俺の人生に、意味をつけてくれたんだろうか。ありえねーけど。

あいつの夢の邪魔になりたくなかったとかそんな綺麗な理由じゃない。ただ俺は知られたくなかった。あいつは俺のことがだいすきだったから、すきですきで堪らなかったから、俺の幸せを第一に考えてくれるだろうってことは分かり切ってた。だからそれに繋げられるように適当な理由なら何だってよかった。好きな奴が出来たからもう一緒にいたくないとか、いつ言おうか迷ってたけど、おまえ留学するならちょうどいいかな、って思った。とか、そんなん。綺麗に並べてあいつに告げた。泣きそうな顔してたけど、「そうか」って、笑って言った。やっぱりあいつは最後まで優しかった。そうやって、実に呆気なく俺達は終わった。あいつが留学する二週間前だった。

もし、もしもあいつが俺と同じように一目惚れだったら。俺があいつのこと知るずっと前からあいつは俺のこと知ってて、すきだったとしたら。きっと俺のことだってバレてただろうし、俺だって、もしかしたらあいつに縋ってたかもしれない。あの優しさに、縋ってしまったかも知れない。あいつは留学を諦めて、俺の側にいたかも。ただ実際はそうじゃなかったし、俺はあいつといる時は全くそれを感じさせなかった。何が何でも隠し通した。それこそいつだって全神経を使って注意してた。それでよかった。俺の所為であいつの足を止めてしまうことが怖かった。あの、俺にベタ惚れのあいつが、こんな状態の俺を残して留学するなんてそんなの絶対にありえなかった。なんだ、これじゃ結局さっき言ってた綺麗な理由ってやつになるんじゃね?まあいいけど


もう薬は飲まなくて良いらしかった。ひょろひょろな気持ち悪い腕には、コードが繋がれてる。こんなもん一つで、俺は。もう未練なんてない筈なのに。これを引きちぎる手もここから立ち上がって走る足もあるのに、今の俺にはもうそれさえ出来なかった。何から何まで手伝ってもらわないと一人では何にも出来なかった。それこそ、呼吸すら。

真っ白い部屋で考えるのは、いつかあいつと二人で行った花畑のことだった。何で花なんて見に行ったのか、あいつが一生懸命教えてくれた、あの花の名前も花言葉も、もう忘れてしまったけれど。あったかい淡いオレンジ色した、太陽みたいな花。あれ綺麗だったな。俺はあんま花とか興味ないけど、あそこ、もう一回行きたかったな。

あいつと、源田、と。

なあ、源田、げんだ。おまえ、俺のことすきだってんならさ、俺の嘘くらい見抜けよ。俺の少ない頭で想像して造り上げたものなんか飛び越えて先回りして、俺を泣かせるくらいしてみろよ。おまえそれでも彼氏かよ。いや、もう違うけど。あ、今ちょっと泣きそうな自分が本気でいやだ

すきだ佐久間。
そんとき、俺も、って。そんな簡単なたった一言が、いつも言えなかった。


あのさ、源田。そんなの、何回だって簡単に言えたのにな。もうこんなんじゃ何も聞こえないよな。ごめんな



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