アイニージュー


俺と源田が付き合って、初めてそういう事言われたのは夏の終わりだった。



もうすぐ秋だってのにその日は朝昼と茹だるような暑さで、夜になってからやっと少しだけ暑さが引いて、それから何がきっかけだったか(確か俺が暇だから海行こうぜみたいなそんな事言った気がする)二人で近所にある夜の海なんかに来ていた。

夜の海なんてロマンティックな響きだけど、一言で言えばとにかく怖かった。でかいし暗いしごうごう音はするし遠くから眺めてるだけでも気を抜くと飲み込まれそうな光景はただただ恐怖でしかなかった。

初めこそすげーだのこえーだの騒いでた俺も飽きてしまって、隣に居た源田も騒ぎはしないものの何だか落ち着かない様子だったのでもう帰ろうと提案した時だった。よかったら家に泊まりに来ないかと言う源田の言葉に、行く行くーなんて軽い返事を返した。それから少し間を置いてから源田が、まあ要約すれば「そろそろお前とヤりたいんだけど」って言う内容を包んで包んで何かカッコイイ感じに束ねて綺麗に飾り立ててリボンまで付けたみたいな言葉に進化させてそれを俺に告げた。実際の台詞は恥ずかし過ぎるのでここでは伏せる。

俺は童貞だった。14では決して恥ずかしい事ではないと思う。もちろんいつか、出来れば早めに卒業したいとはぼんやり思っていた。だが、男同士でいたす事になるなんて、ましてや俺が女役になり処女喪失、なんて未来は全く考えていなかった。
でも、ノンケだった筈の俺が、源田と付き合うだろうなってそこの未来だけは予想していた。何となく。それはとても矛盾しているんだけど、何となくだし俺にもよくわからない。ただ源田の俺を見る目は確実に恋する目だったし、きっと俺もそうだった。だから今のこの現状はとても自然な流れだったように思う。

では、付き合ってからのその、先、とは。

まあ付き合った以上そうなるのは当然の流れで、俺だって男だからそりゃわかりすぎる程。
でもそれは世間一般の流れであって、きっと何処かで客観視していたのだろう。それをいざ自分達で置き換えて考えてみると、現実味というものがまるでなかったのだ。

そして突然現実を突き付けられた俺は、その時はとにかく恥ずかしくて、たまらなく恥ずかしくて、俯いたまま源田の顔を見ようともせず「暑いから絶対嫌だ」なんてテンパったにも程がある理由をのせてハッキリNOと告げた。源田はそうかとただそれだけ言った。どんな顔してたか見なかったけど、多分困ったみたいに、申し訳なさそうに笑ってたんだと思う。


その帰りは、若干の気まずさを纏ったまま手を繋いで歩いた。「変な事言ってごめんな」と言ってくれた源田に、俺はいよいよ顔から火が出そうになり、うっかり泣きそうにもなった。こんな自分は出来れば一生知りたくなかった。


それからどうしたか、会話の内容なんかはあまり覚えていない。気が付けば俺は見慣れた源田の部屋にいて、布団を敷き終えた源田が俺の名を呼んでいた。

「佐久間が嫌なら絶対に何もしないから安心して欲しい」

その台詞通り、その日は二人でただ向かい合って眠った。どちらかの家に泊まるという行為事態は珍しくはなく、その場合はいつもこうして向かい合って眠っていた。だがいつもと違ってしまった俺の脳内ではこんな状況で寝れる訳がないと思っていたが、予想に反し直ぐに眠りにつく事が出来た。背を叩く大きな手が、その変わらないリズムが心地よかったのを今でもよく覚えている。言った事はないが、俺はこの源田の手がすきだった。

暑い暑いと文句を言っていた筈の俺はその日、源田に縋るようにして深く眠った。
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