それは勇気だったのでしょう


「風丸さんは、すきですか。キャラメル」

甘い物がすき。そう言った日から週に一度、決まって部活が休みの日になると、宮坂は何かしら甘い物を持って俺に会いにやって来た。それはポッキーだったりキャラメルだったりチョコだったり、色んな味のカラフルな飴だったり。先週はチョコチップクッキーだった。今日はキャラメル。白い紙にひとつひとつ包まれた小さなそれを、手のひらに乗せてやって来た宮坂は何だかキラキラして見える。

これはすきですかあれはすきですか。宮坂はいつも質問ばかりしてくる。俺は甘い物ならば大体は食えるから、その度にすきだと答える。そう言うといつも無表情な宮坂が、ちょっとだけ幸せそうにするのがわかった。

陸上部の後輩である宮坂と初めて会話を交わしたのは、少し前の事だ。宮坂は部内ではあまり目立つような存在ではなかったけれど、人一番負けず嫌いで、走ることに真っ直ぐだった。そんな所に目を惹かれたのだと思う。一生懸命な奴はすきだ。だから俺も宮坂を気に入っていたし、宮坂も俺を慕ってくれているようだったから二人の時間が増え距離が縮まる事は純粋に嬉しかった。宮坂との時間は暖かくてくすぐったい。



今日は何だかいつもと違った。いつも通り俺の教室を訪ねて来た宮坂が、俺に小さな箱を差し出している。ピンクのリボンが巻かれたそれは、プレゼントだろうか。

「ケーキか何かか?」
「マフィンです」

どうやら中身はマフィンらしい。いつもありがとうそれじゃあ食べようかと言うと、宮坂は黙って首を横に振った。

「一緒に食べないのか?」
「今日はだめなんです」
「そっか、残念」

甘いものを食べることより、最近は何だか宮坂と一緒に食べるという事を楽しみにしていたから、少し寂しかった。それが無意識に顔に出てしまったのかもしれない。宮坂は何とも言えない顔をして、それからいつものように質問をする。

「すきですか。マフィン」
「ああ、すきだ」

宮坂は俺の返事を聞くと満足そうに頷き、じゃあ帰りますと言って頭を下げるとそのまま走って階段を下りて行った。

放課後の教室はあっという間に人が居なくなる。部活に向かう生徒や、帰宅する生徒。ここ最近はいつも宮坂と一緒にいたから、今日俺が学校に残る意味なんて何もない。だけど何だか帰る気になれなくて、無人になった教室の自分の席に座って箱を開けてみることにした。

そこにはなんだか不格好で小さなマフィンが入っていた。チョコチップがこれでもかという程のっている。
よく見ると、箱の中に縮こまって小さくなった一枚のカードがある。そこに書かれた文字に、何故か違和感を覚える。

(あ、いつもと逆だ)

そう気付いて、自然と頬が緩んだ。宮坂の顔しか浮かばなくなった。すきだよと言ったときの、安心したような、嬉しそうな顔。

宮坂の家はここから歩いて10分弱。今から走って追いかけてもきっと間に合わない。頭でそう考えながらも、俺は鞄を肩に引っ掛けて走り出した。

それに宮坂はまだ学校にいる。そんな気がした。だから、やっぱり一緒に食べようって伝えよう。それから、今度は俺から質問してみよう。
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テーマ「人外ファンタジー」
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