また季節を巡る


暦上、今日から日本には春が来るのだという。


今日は学校も部活も休みで何もない。そんな休日の午後、俺達は土手を歩いていた。
ここから電車で二駅。そこにあるスポーツショップに行く為駅までの道のりを並んで歩く。ふと、源田の手に触りたいと思った。あまりに俺より大きいもんだから、何食って育ったらこんなんなるんだって思って、咄嗟の行動だった。考えなんてなかった。ただそれは結果的に、白昼堂々男同士が手を繋ぐ、という、つまりは奇怪の目で見られる原因を作ってしまったのだ。

源田は大層驚いたようで、でも俺の手を振り解く事も声をあげる事もせずに挙げ句手を握り返してきた。

源田は優しい。だからきっとなんか、何て言うか、俺の事を弟みたいな、そんな放っておけない生き物として認識しているんだろうと思う。今だって、急に人恋しくなって甘えてきた弟に「かわいい奴だなよしよしお兄ちゃんが手を繋いで安心させてやろう」なんて、そんなところだろうか。俺はどうだろう。源田の事、兄貴みたいに思ってるんだろうか。
もちろん手を繋ぎたい、って思ったわけじゃない。でもどうだろう。何故こうなったのか。そもそも俺はどういう意図で源田に触れられたいと思っているのだろうか。

そこで、何だかちょっぴりおかしな雰囲気になってきている事に気付いた。小さい子どもならまだしも、中学生男子が仲むつまじく手を繋いでいるなんてこんな状況はあまりよろしいものではない。なのに離そうとしないのだ。
若干の気まずい沈黙の中。それを破ったのは源田だった。

「佐久間」
「な、なに」
「少し、いいか」
「だから何が」
「付き合ってくれ」

これは一体、どういう意味だろうか。
そう考えてふと気付いた。むしろそう考える事自体おかしいのだ。間違っても自分の弟に恋人になってくれなんて告白をする訳がない。つまりは、

「だから、今から一緒に行くんだろ」

これだ。間違いない。俺は無難な、最も正しい答えを返した筈だ。何だか無性に泣きたくなった。そこで初めて期待していた自分に気付く。俺は頑張ってマヌケな笑顔を貼り付ける事に成功した。するとそれを見た源田が困ったように笑う。

「いや、あー、あのさ。付き合ってくれって、そういう意味じゃないんだが…」
「じゃあ何だよ」
「好きだ、と言えばわかってもらえるか」

その時ふと、客観的に自分の顔を想像した。きっと鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔。そんなもの、実際は見たことないが。

その一言は今俺に最も言ってはならない台詞ナンバーワンだった。いきなり容量をはるかに超える台詞を告げられた俺は、次の言葉を出せずにいた。その代わりに、物凄い勢いで繋いでいた手を解くと自分の顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。

その後少しして、後ろから自転車のベルが鳴った。我に返った俺の手を源田が掴み、そのまま元来た道を走り出した。ありきたりな言葉だがその時確かに、今までとは景色がまるで違って見えたのだ。

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