アザレア


こんなアホ面晒して安らかに寝息立てている奴が起きているわけがないと高を括って、遠慮なく素足をくっつけてやった。裸の足と足がくっついて、冷え切った俺の足がじんわりと熱を感知するが完全に暖まるのはまだまだ先になりそうだ。

次に、足と同じくらい冷たくなった指を頬にくっつけた。あったかい。当たり前だが、眠っている人間はとても暖かいのだ。死んだら冷たいのに、眠っている人間は暖かいのだ。だから死んだ人間を眠ると言ったりなんかするのは、ちょっと違うんじゃないかと俺は思う。人間は、また次に目覚める為に眠るのだ。生きているから眠くなる。こうして暖かくなるのだ。

「佐久間、冷たい」

ふ、と笑った。その声は布団に埋もれていた所為でくぐもった音になる。

「起きてたのかよ」
「佐久間の足が冷たすぎて起きたんだ。びっくりした」

源田の目はぼんやりとしか俺を捉えていない。今にもまた閉じてしまいそうに重たいまぶたが、ゆっくりとした動作でまばたきを繰り返している。
頬から目尻へと指で辿った後、同じ様にその道を舌で辿った。少ししょっぱい。

「こら、佐久間」
「なんだよ」
「寝るんじゃないのか」
「何言ってるんだ。もう朝だぞ。外が明るい」
「眠っていないだろう、おまえは」

源田と俺は、同じまるで違う生き物みたいだ。一言で言うならば、男らしい。ひょろひょろした俺なんかと違って源田はきちんとした成長というものが目に見えている。手なんかだって俺よりずっと大きく、肩だってがっしりとしている。筋肉のつき方がまるで違う。それこそ体格なんて一回り違うんじゃないかと思う。昔は嫌で仕方なかったそれが、心地よくなってしまったのはいつからだったか。そして、自分がそれを認めたのも。思えば、それはそんなに長い時間なんかじゃなかった。寧ろ、とても早かったのだ。

首筋にねっとり舌を這わせてから鎖骨に歯を立てた。がぶりと音がしそうなくらい思いっ切り。実際は音なんてしなかったけど。

ふ、と今度は源田が笑う番だった。そのまま俺の身体は反転させられて源田とシーツの間に縫い付けられたみたいにぴったりハマって動けなくなる。強請るように口を開けば直ぐに欲しかったものが降りてくる。源田はいつも、俺の機嫌をとるのが上手かった。

「やっぱ一番あったかいな」
「何が?」
「おまえの、口ん中。ベロ」

も一回、そう言おうとしたらそれより先に源田の熱いベロがまた俺の口の中に入り込んできた。歯列を割り開いて上顎を辿って、お互いの唾液を交換する。送り込まれたそれをこくりと飲み込むと、見届けようとするみたいに源田の目が薄く開いた。ついさっきまではカサついていた唇が今では濡れているのを見て、俺はもっと機嫌が良くなった。源田は、機嫌がいい時の俺をとことん甘やかす。

源田の指先が俺の腰を辿って更にその後ろへと滑る。その意図を持った指先にぞくりとして、先程より少しだけ暖まった素足でシーツをとんと蹴った。

「佐久間の中は、もっと熱いぞ」
「朝から最低だな。オヤジかよ」

小さく笑ったのは、今回は同時の事だった。鼻先を付け合いながら布団に潜りこむ。その中は生ぬるい空気で満たされていた。
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