しあわせおすそわけ


「昨日の夜、いつもとちょっと趣向を変えようと思ってね、緑川に玩具を使おうとしたんだ。あっ別に普段の緑川に不満があるわけじゃないんだよ?ただちょっとした興味というか何というか…まあ俺も若いしさ!そしたらね、緑川怖がって泣いちゃってさ…直ぐにやめてあげて俺は謝ったんだけどね。その時何て言ったと思う?俺はヒロトのしか入れたくないよって言ったんだ…泣きながらだよ?信じられる?あれには本当に参ったよ…可愛すぎてどうにかなるかと思った。緑川って時々本当に人間なのかって疑いたくなるくらい可愛いんだよね。いやいつも可愛いんだけど」
「頼むから簡潔に用件のみ伝えてくれ」
「え?ボーイズトーク?恋人自慢?彼氏同士の会話?」
「俺は時々お前が人間なのか疑いたくなるよ。会話がまるで成り立たない」
「あ、そうそうこれあげるね。俺にはもう必要なくなっちゃったから。風介が気に入るといいんだけど」
「気に入るかよ!」

今朝目覚めた南雲の目に最初に映ったのは、可愛い可愛い恋人の寝顔…ではなく基山ヒロトのどアップだった。その時点で大声を上げなかったのは不幸中の幸い。どうやら人は本当に驚くと、声が出ないようだ。

その後直ぐに、状況をうまく飲み込めないままとりあえず上半身だけをベッドから起こした南雲に浴びせられたのは、目覚ましの音なんかじゃなく基山からのマシンガントークだった。内容は何て事ないただの惚気。しかもあんまり聞きたくない方面のものだ。その手にはあまり直視したくない毒々しいモノが握られている。おまえ、そんなモン緑川に使おうとしたのかよそりゃあ泣かれるわ…と言う言葉を、南雲はギリギリの所で飲み込んでいた。

「ヒロト…今は朝だ」
「だからさっきおはようって言ったじゃないか」
「風介が起きたらどうすんだ。殴られんの俺だぞ…」
「起きてもいいじゃない。3人で話そうよ」

涼野は今、南雲の隣で眠っている。むき出しになっていた肩に布団を掛けると、少し身じろいだものの気持ちよさそうに寝息を立てている。だがこんな状態じゃいつ目覚めたっておかしくないのだ。
基山も少しは気を使っているのだろうか、いつもよりは小さな声で、だが相変わらず物凄い勢いで口を動かしている。

「風介本当によく寝てるね。昨日よっぽど疲れさせたんでしょう?ダメだなぁ晴矢あんまり無理させちゃ。それで昨日はどんな感じだったの?ていうか普段どんなセックスするの?2人のそういうの想像出来ないから気になるなぁ〜特に風介。この子が一体どうなっちゃうのか…」
「頼むから黙ってくれもしくは帰ってくれ」
「可愛いんでしょ?乱れた風介。可愛くないの?」
「そんなのめちゃくちゃ可愛いに決まってんじゃねぇか」
「わあ!晴矢が惚気た!」

何がそんなに嬉しいのか、基山の表情がパッと明るくなる。南雲はとにかく気が気じゃなかった。いつもは天使と見間違えるような恋人の寝顔が、心なしか恐ろしく見える程に。

そんな南雲に対し、基山は気持ち悪いくらいにニコニコしたまま口を動かし続けている。よくもまあ朝からそんなによく動くものだと呆れながらも、それを律儀に聞いている南雲は、悲しいかな根が真面目な奴だった。今はとにかく最悪の状態を回避せねばと、南雲はそればかりを考えていた。

「もう本当に帰ってくれ…こんな話してるって風介にバレたら…」
「え?風介はよく話してくれるよ?
「は」
「必死な晴矢はいつもの倍暑苦しくてきもいって風介言ってたよ。あとイキそうになると名前連呼されるとか。この間教えてもらっちゃった」

あっこれ言っちゃダメだったかなあーでも口止めはされてないからきっと大丈夫だよね!
そんな言葉は果たして届いたか届かなかったか。その頃既に南雲の意識は遥か遠くにぶっ飛んでいた。そしてしばらく帰ってこれそうにない程に衝撃を受けていた。

「緑川もねえー、イキそうになると俺の名前連呼するんだよ。ヒロトヒロトぉって。凄く可愛いんだ。それでね、」


人間は本当に驚くと声が全く出なくなる。この日南雲は、その事実を身を持って知った。

その後基山が帰るまで涼野が目覚めることはなかったが、もし目覚めていたら…南雲はそこで、考えることを放棄した。

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テーマ「人外ファンタジー」
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