ひとりは寂しい、ふたりは悲しい


やめろ離せ触るなと怒りを隠しもせずにそう叫び、隙あらば殺してやるってくらいの視線を俺に浴びせていたガゼルは、今ではまるで別人のように、ただひたすらに俺に悲願している。

可笑しな話だ。



後ろ手に両腕を縛り付けたまま背中に覆い被さり容赦なく貫いた。数回熱を受け入れされられた其処はぐずぐずに解け、だがキツく俺のものを締め付けている。何度も何度も擦り続けたそこは、もうとっくに痛みも、もはや感覚なんてないんだろう。俺は突っ込まれた事なんてないからわからないけど。こいつも、初めは痛い痛いって泣きじゃくって大変だったな。何て、いつの、何の話だっけな。

ガゼルはシーツに顔を擦り付けたままぜぇぜぇと肩で息をしていて、その度に上下する背中から腰に綺かけての綺麗なラインを眺める。こうして抱くガゼルの身体は、見た目よりずっと細かった。

白濁で汚れたままの小さな唇は、酸素を取り入れようと必死になって動いていた。はくはくと動くそこから俺の名前が呼ばれることはもうなかった。変わりに、もうやだとかだめとかやめてとか。やめて、だめ、離して、もう許して、そう言った言葉だけが、俺にしか聞こえないくらいにとても小さく小さく紡ぎ出され続けていた。

俺よりも数回多く達しているガゼルの性器に手を伸ばす。すると、どこにそんな力が残ってたのかってくらいに激しく抵抗し出した。
「もう出ない!触らないで!」それはもう叫び声だった。でも手を縛られていて、更に俺と現在進行形で繋がっている今この状態で出来る抵抗と言えばたかが知れているというものだ。そのままガゼルの前を扱きながら揺さぶってやると、鼻から抜けるような甘い声を漏らす。そのまま、中のある一点を集中的に狙って突き上げた。

「ん、ひっ、やだっ、やだやだやだああっ、あああああーーーーっ!」
「そんな嫌がんなよ。さすがの俺も傷付くぜー?」
「やああーっ、ん、んんっ」
「はは、嫌ってわりにえっろい声出してんじゃん。それに、初めてって訳でもねぇだろ」

そう口にした瞬間、この行為を始めてからも今まで一度だって泣かなかったガゼルが、ぼろぼろと大粒の涙を零した。それを見た瞬間、脳がフラッシュバックし、真っ白になる。

「っ、ひ、くっ」
「おい、何、おまえ急に」

声を掛けた瞬間、ついにガゼルはわあああと声を上げて泣き出してしまった。
ガゼルはきっと、あの頃のことを思い出して泣いたのだろうと、なんとなくだけどそう思った。だけど今の俺には確かめる術もない。ガゼルだって絶対に言わないだろうし。

俺は何かが詰まって取れないような気持ちのまま、精液でべとべとになった手でガゼルの頭を撫でた。嗚咽に混じって、いつかの懐かしい名前が聞こえた。


(それはきっと、痛みとか、なんか、そんな)
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