7日目
俺の休日は、セットしていたアラームが鳴るよりも随分早くから始まった。
「今日は何だ」
「一緒に朝飯食おうかと思って。コーヒーでいいか?」
「んー、コーヒー…」
「嫌か?ああそうだ。おすすめの紅茶があるんだが、」
あと3秒、このまま目を閉じてたらもう一度眠れそうだな。そう思いながら、ふかふかのクッションに顔を埋めて源田の言葉を聞き流す。今の俺の格好と言えば、完全なる寝起きで、寝癖も直していないような酷い状態のままソファーに寝転んでいる。
「こらこら佐久間、寝るな。ほら出来たぞ」
源田幸次郎。年齢不明。職業不明。(学校に通っている訳ではないようなので恐らく就職しているのだろう。平日は朝早くに出て夜に帰って来ることが多い)
つい一週間前に此処へ越してきて隣人になったこの男は、どういう訳だかこうして俺の世話を焼きたがる。今のように俺がこの部屋へ足を踏み入れるのは一度や二度ではなかった。初めて俺がこの部屋へ上がったのはこの男が越して来た次の日。つまり俺達が知り合った翌日の夜のことだった。料理を作りすぎてしまった等というまるでお隣の奥様かと突っ込みたくなるような台詞を口にして、俺の元へ訪れたのが最初。わけがわからず立ち尽くした俺の手が引かれ、あれよあれよと言う間に源田の部屋へ。いかにも越して来たばかりですという風な、ダンボールが積まれた部屋だった。必要最低限の家具だけが並ぶ至ってシンプルな部屋の中、キッチンだけが違う色を見せていた。何に使うのかまるでわからない、見たこともないような器具が沢山並んでいる。そして、お洒落なカフェ気取りかとこれまた突っ込みたくなるようなテーブル、そしてその上に綺麗に並べられた料理。スープ、サラダ、ビーフシチュー…オムライス。俺の、大好物だった。俺は誘惑に負けた。
今日はあれから何度目だったか。こうして、源田と俺との二人きりの食事会が行われた。突然押し掛けられて料理を出されるという、これこそありがた迷惑というやつだ。だが慣れというのは恐ろしいもので、半ば強引に始まったこの食事会を鬱陶しいとさえ思っていた俺は、今ではすんなりそれを受け入れてしまっている。
(あ、いい匂い)
目の前に並んでいるのは一枚のプレートに乗った、キツネ色のトースト、目玉焼き。ミニトマトが散らされたサラダには、オレンジ色のドレッシングがかけられている。
「ジャムは、苺とママレード。あとはブルーベリーがあるぞ」
「…苺がいい」
「わかった。ちょっと待ってろ」
「いい!ジャムくらい自分で塗る!」
はっとして俺がそう言うと、納得した様子の源田が頷く。俺は顔に熱が集まるのを感じた。源田は俺を、自分の子供か何かと思っているのだろうか。だとしたらあれか、源田は俺のおふくろか。割烹着とか普通に似合いそうで嫌だな。
目玉焼きの黄身にフォークを突き刺す。半熟のそれがどろりと流れてレタスについた。
(7日目)