16日目


「佐久間、甘いものはすきか?」
「…なんだ、それは」
「ケーキだ!」

時刻は23時37分。ドアを開けるとそこには、満面の笑みの源田が白い箱を差し出していた。

箱の中には、甘そうなケーキがいくつも並んでいて見てるだけで胃もたれしそうだ。これはいつも迷惑ばかりかけてる俺へのお礼、らしい。俺はそれよりもこいつがいつも迷惑をかけているという自覚があるのだと言う事実に驚いた。自覚がありながらそれが止む気配は一向にないし、かと言って、食わせて貰っている俺がこう思うのもなんだが…でもこれは勝手に、源田が強引にやっている訳であって…。(そもそもこんな時間に訪ねて来る時点で、俺の迷惑になるという考えはなかったのか)

そのお礼とやらと源田が淹れた紅茶を並べて、二人で向かい合って座る。自分の部屋に源田が居る事にどこか不自然さを感じ、こいつが俺の部屋に入るのは初めてだという事に気付いた。俺が源田の部屋に上がることは何度もあったが、俺の部屋に源田が来ることは今までなかったのだ。
源田は、随分と機嫌が良さそうだった。目の前に置かれた苺がたっぷり乗ったケーキと、向かいに座る源田の顔とを交互に眺める。

「源田は食べないのか?」
「ああ、俺はいいよ」

…甘い物が苦手なのだろうか?だとすれば、この箱に並べられた大量のケーキ達を、全て俺に平らげろと言うことなのだろうか。ケーキは生物であって、その賞味期限は1日だ。買う時に必ず「本日中にお召し上がり下さい」と言われるくらいなのだから俺でも知っている。いくら甘い物がすきだからと言って、本日中にこの量を1人で、というのは無理がある。

ふと、コーヒーカップを持つ源田の指先が、絆創膏で覆われていることに気付く。つい最近まではなかった筈だ。

「おい、それ」
「ん?何だ?」
「その指の傷。どうした」

俺の指しているものが何か気が付くと、あぁと言って自分の指先を見た。その後、いつものことで別になんでもないと言うと照れたように笑ってそれから直ぐにまたカップに口を付ける。
その後直ぐに、下に伏せられた視線が俺に向けられる。突然のことに少し驚きつつも、俺はその目から視線を外せないでいた。

「心配してくれた?」
「あぁ?何で」
「なんでって…、まぁ、いいか。とにかくありがとな」

佐久間は優しいな!
そう言って笑うこいつは、本当に嬉しそうだ。俺はなんだかそれが気に食わなくて、ケーキを一気に半分くらいの大きさに切ると、それを口に放り込んだ。無理に押し込んだ所為でスポンジが喉に絡んで、少しむせた。

「美味いか?」
「…美味いよ」
「そうか」

それから源田は、終始嬉しそうにしていた。俺はその視線が、何だかくすぐったくて堪らなかった。


(16日目)
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