君が望む言葉を言ってやれない


俺の命はあと半年で消えてしまう。そう言った緑川の言葉を俺は理解出来なかった。

愛してた。ずっと一緒に居たいと思った。たったひとりだった。その緑川が、いつもと同じ笑顔で俺に告げた。もう良くなることはないんだと。ヒロトを幸せにしてあげられない。邪魔になりたくない。どうか俺を忘れて欲しい。緑川はいつものように笑ってた。
違う。いつものような笑顔を、いつもと同じ風に見えるように無理して作って貼り付けてた。いつもはだいすきなその笑顔が、俺は嫌で嫌で堪らなかった。

俺はそれでも一緒に居たいと告げた。残り僅かな時間でも構わない。愛してるんだ離れたくない。そう言った。だけど緑川は首を横に振って、一緒にはいられないんだと言った。優しいヒロトは俺が死んでもきっとずっと想っていてくれる、それが辛い。側に居られないのに愛し合うことが辛いと。そう言った。
緑川の耳にはもう俺の声が届いていないみたいだった。俺は馬鹿みたいにただ抱き締めることしか出来なかった。

緑川は俺にだけ聞こえる程の小さな声で、ごめんなさい、ごめんなさいヒロト、と謝り続けた。俺はもう一度、愛してると言った。情けないことにもう俺の声は涙声になっていた。
俺はヒロトを幸せにしてあげられない、邪魔になりたくない。緑川は先程と同じ台詞を繰り返した。ヒロトの為にしてあげられることが何もない。どうか俺以外の誰かと幸せになって下さい。そう付け足す緑川の小さなの手を、強く握り締めた。俺は大きく息を吸い込むと、真直ぐに目を見つめた


緑川の隣で見てきた世界は俺の全てで、それはどうしようもないくらいに綺麗だったんだ。もし緑川もそうだったなら、少しでも俺の為に何かしたいと思ってくれているなら、緑川の残りの時間を全部俺にちょうだいよ。

繋いだ指先は冷たかったけど、悲しくはなかった。ボロボロ涙を零しながら緑川が笑う。それはまるでプレゼントを貰った子供みたいに幸せそうな笑顔だった。俺にはそれだけが救いのように思えた。


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