永遠の先を誓う


目の前に小さな箱がある。中身は簡単に予想出来た。逆にこれでもし違っていたら、俺はとんだ勘違い野郎になってしまう。

「ジャンルカ。何か言って」
「誕生日おめでとう」
「ありがとう。でもそれはさっき聞いたから。はい、それ以外で」

今日という特別な日を、こうして二人で過ごすこと。顔を見ておめでとうと言うこと。それは、先週の彼からの電話で諦めがついていた。悲しくないと言ったら嘘になる。だが仕事の都合上仕方ない。でも、だけど、なんて諦めの悪い自分を必至に言い聞かせてどうにか今日まで我慢して我慢して、どうにか諦めた。なのに今どうしてか、此処に居る筈のない彼と向かい合って座っている。

そんな彼が息を切らしながらこの部屋に来たのは、丁度日付が変わった頃だったと思う。
ここへ来てからというもの、真面目な表情を崩さない彼の前に置いたココアは、もうすっかり温くなってしまっているだろう。

「俺が、というか、イタリア人はプロポーズなんて朝飯前、だとか思ってるでしょ」
「まぁ」
「あのさ、そんなの、全然違うから」

…全然、そんなことないよ。
消え入りそうな声でただ一言。そう言ったきり、そのまま机に突っ伏してしまった。
何故彼の誕生日に俺の方が貰ってばかりなんだろう。プレゼントは俺だなんてそんなベタな展開、死んでもお断りだけど。俺は目の前で揺れるふわふわした髪をぼうっと眺めながら、そんな事を考えていた。微動だにしないマルコの髪の隙間から、少しだけ耳が見える。

「マルコさん、耳が物凄く赤いんですけど」
「…言うな」
「誕生日と被ったら、記念日が減るぞ?」
「ばか!二倍嬉しい日になんだからいいんだよ!」

物凄い勢いで顔を上げるから、マグカップが音を立てて倒れた。うおおーなんて変な声出しながら焦る姿は、いつもと何ら変わりない。

(変わらない、んだけどなぁ)

マルコは記念日を作るのがすきだった。いつも何かと理由をつけては、記念日だと言って祝おうとするやつだ。来年の今日は、プロポーズ記念日だと言って祝うのだろうか。
それにしても二倍嬉しい日。なんだそれは。こういうところ、未だによくわからない。そもそも男同士だ。そういうのは可愛い女の子に言えよ。って、いや、もし言ったらぶん殴って別れてやる。離婚だ離婚。いやいや離婚てなんだよどう考えても矛盾してるというかだめだ頭が働かない気がする。ああ俺は案外混乱しているのか

「はい」
「へ?」
「だから、返事だろ」
「…返事軽すぎだろ」
「だって俺もなんだかいっぱいいっぱいみたいだから。これでいいだろ」
「あー…っもう!」

そう言って頭をがしがしと掻きながら立ち上がったと思った次の瞬間、世界の色が変わった。

「もう!いちいち可愛いんだよ!ジャンルカは!」

骨が折れるんじゃないかってくらいに抱き締められて一瞬息が止まった。
彼のジャケットからは、ココアに混じってまだ冷たい冬の匂いがする。


「…幸せの匂いってこんなのかな」
「ほらまた!何言ってんのか全然わかんない!可愛い!」


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テーマ「人外ファンタジー」
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