夢に白猫
にゃあ
ぼんやりとした意識の中でもはっきり聞き取れたそれは、紛れもなく猫の声だった。と、思うのだが、結局意識が覚醒しきれてないのだから確実にそうとは言い切れないのだけれど。多分猫だ。だってにゃあって鳴いてるし。
にゃあ
どうやら寝返りを打った際に起こしてしまったらしい。その猫は文句を言うようにまたひとつ、間延びした声をあげる。ごめんなーなんて、あまりにも適当な謝罪の言葉。だけどそれが、満足に頭が働かない今の俺の精一杯だ。
肩までずり下がった布団を引っ張り上げ頭まですっぽりと被り直す。もう春だと言っても朝方はまだまだ寒い。そして重い。重い?なにが。
(ああ、だから、そうそう、そうだよ。猫がいるんだった。俺の、布団の上に、白い猫が)
にゃあ
寒いのかな。そう思って俺はその白猫を布団の中に入れてやった。安心したように身を寄せる猫は、そのまま寝息を立て始め、
「おい」
そう。そうやって俺を呼び
「おい、聞いているのか」
あ?可愛い見た目に反して案外口悪い。これじゃまるで、
「っ、晴矢!」
風介みたいじゃ、って。あ、もしかして今俺の名前呼んだ?
「暑苦しい!早く出て行け!」
「いってぇえええええ!!」
次の瞬間、目の前に床。うそ、なんで今ベッドから蹴り落とされたの。
「なんなんだよ!寒いんじゃなかったのかよ!」
「はぁ?何の話だ。寝ぼけているのか?」
「ん、や、大丈夫だって。俺、風介が猫でもすきだぜ」
「何の話だ」
頭は大丈夫かいや君の頭が大丈夫なことなど一秒たりともなかったななんて言う。あ、ひでえな。でも今の顔可愛いな。風介て結構天の邪鬼なとこあるからな。可愛いな
「さっきまであんなに可愛かったのになあ」
「だから夢の話だろう」
ぱたりとシーツを一度叩く音がして、白い尻尾が見えた気がした。やっぱり風介て実は猫なんじゃないかな。似てるし。