スイッチ


あ、これまずいかな。そう思った次の瞬間、豪炎寺は俺の肩を掴むとそのまま後ろにあった壁と俺の背中をくっ付けた。すっかり冷え切ってしまった髪に手を差し入れられて、目を閉じる間もなく冷たい唇が押し付けられた。冷え切った指先から、ノートが落ちていくのを感じて少し焦ったけど、完全に真っ白になってしまった今の頭ではどうすることも出来なかった。次に、体勢を崩し掛けた俺の耳に届いたのは、ベルトが外される音だった。手でがっしりと押さえ込まれている為顔を逸らす事も出来ず、呼吸を奪うようなそれの合間に、やっとの事で絞り出した声は情けない程震えている。

「ご、えんじ、待て」
「待てない」
「待って」
「無理だ」


そう言って俺の後頭部に手を回し俺の髪を解く。慣れたもんだななんて感心している場合ではなかった。だってこれは、この仕草をやるときは決まってこいつは、

「豪炎寺!やだって!」

こんな所でヤられてたまるか!俺だって男だ。豪炎寺を突き飛ばすくらいの力は…なかった。完全になかった。よくよく考えれば、俺が豪炎寺に勝てる筈がないのはわかっていた。でも抵抗せずはいられない。俺は今出る限りの力で豪炎寺の髪を引っ張った。だが今の俺の全力なんてたかが知れている。そんな俺を置いてけぼりにして、豪炎寺が俺の下着の中に手を入れ、少し反応を示していた性器に触れた。

「な、まじでやめろって!」
「最後まではしない。触るだけだ」

なんだそれ。ちっとも安心出来ない。俺の気持ちを無視して、悲しいことに俺の下半身は至って素直に、先程よりも更に反応を示していた。豪炎寺のそれがどうなっているかなんて事はもう知っている。初めにキスされた時から、俺の太もも辺りに押し付けられている。

「っん、ん」
「大丈夫だ。風丸」

何が大丈夫かわからないが、豪炎寺が慰めるように俺の瞼にキスをするから、ふっと力が抜けてしまった。そのまま膝が折れてしまいそうになるのを、豪炎寺の首に手を回して耐える。自分の耳元に流れ込む豪炎寺の熱い息と、自身から聞こえる水音に、顔に熱が集まるのを感じた。紛れもなく俺は、興奮してしまっていた。俺ってエムなんだろうか。ああ認めたくない。

「あっ、あ、やだ」
「気持ちいいか?」
「んーっ、ん、や、豪炎寺っ」

豪炎寺がずるりと俺の制服を下ろし、その所為で完全に俺の下半身が外に出された。そのままあっという間にひっくり返され、今度は視界いっぱいに壁が広がった。豪炎寺の手が、いやらしく俺の内太ももをなぞる。

「…っ、最後まで、しないって言った」
「ああ、大丈夫だ」

足閉じてろ。その一言でわかった。わかりたくはないが、全てわかってしまった。そのまま剥き出しになっている俺の太ももの間に熱いものが埋め込まれ、それはすぐに動きだした。情けなくぶら下がった俺の袋の部分と擦れ、何だか可笑しな気分になる。挿れていないのは確かだが、後ろから食われているような気分だった。そのまま豪炎寺は俺の耳に舌を這わせながら、すっかり勃ち上がってしまいだらだらと先走りを漏らす俺の性器に触れてきた。

「ふうっ、んっ、や」
「風丸、気持ちいいか?」
「ひっ、や、ああっ」

豪炎寺は、こういう時ちょっとエスだと思う。色々言わせたがるし、俺が嫌がってる方が燃える。本人気付いてるのかわかんないけど。
次第に大きくなる水音と二人分の荒い息に、完全に聴覚を犯されている気分だった。だんだんと意識が朦朧としてきた時、豪炎寺が俺の先に爪を立て尿道を弄る。瞬間、身体がびくりと大きく震え、その振動でずり落ちそうになった俺はぎゅっと目を瞑ったまま目の前の壁に強く爪を立てていた。

「あ!やあっ、だめ!豪炎寺はなして」

もう出る、そう思った瞬間、豪炎寺は俺の根元をぎゅうっと握った。俺の喉から、ひゅうっと情けない音を立てて空気が通る。そして、豪炎寺が耳元で俺の名前を呼んだ。まさか、まさかまさかまさかこいつ

「…風丸」

声色は酷く優しいものではあるのだが、それには有無を言わさぬ絶対的な強さがあった。
こんな、趣味がいいとは思えない。なんでだ。いつもは格好良いじゃないか。言ったことはないが、豪炎寺は俺の自慢の彼氏だ。なのにこいつは…ちくしょう。こいつ調子乗ってる。後で絶対蹴る。全力で蹴ってやる。股関を。

「っ、やだ、ぁ…」
「言えよ、風丸。このままだと辛いだろう?」
「こ、のっ、やろ…」


それから俺は豪炎寺に教え込まれた、豪炎寺好みの台詞を言わされた。

その後、俺より少し遅れて達した豪炎寺にお掃除フェラなるものを強要されそうになったが、今度こそ全力で髪を引っ張り怯んだ隙に脇腹に蹴りを入れた。床に伸びている背中に向けて変態白髪球根頭むっつりシスコンと思い付く限りの悪態を吐いてはみたが、下半身丸出しのこんな状態じゃ何だか情けなかった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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