授業中はお静かに


「大きな白い犬を飼おう。佐久間、前に欲しいって言ってたろ」

源田が突拍子の無い発言をするのはもう慣れたことで、それに対する俺の行動は決まって二択。適当に相槌を打つか、聞こえないフりをして流す。
俺は今大量のプリントと向き合っている。今日は絶対にこれを片付けると今決めた。だから俺は今忙しい。つまり何も聞かなかった。

「歩いて海に行ける方がいいよな。佐久間すきだろ、海」

「狭くて、寝室はベッド一つ置いたらもう部屋いっぱいになるくらいがいいな」

ついさっきまでは周りの騒がしい声を少々鬱陶しく思っていたが、今はそれよりも目の前で頭に花咲かせながらぶっ飛んでる源田が問題だ。俺はカリカリとペンを走らせる音だけに意識を集中させようと、それだけを、

「あ。あと大きな水槽か。ペンギン達にストレスを与えないよう細心の注意を」
「おい、なんの話だ。」

そして数秒後にあっさり負けた。だって、源田がペンギンて。

「何ってマイホームの話だ。やっぱ大きい方がいいか?でも寝室は、」
「おまえ、馬鹿でかい家があんだろ」
「だから、俺達の家だよ。」
「何が」
「マイホーム」
「誰の」
「俺達の愛の巣だ。佐久間」

シャーペンの芯が勢いよく折れて、どこかに飛んだ。俺たちはただの学生だ。更に言うと、自習ではあるが今は授業中だ。目の前のプリントはまだ半分も終わっていない。

「犬の名前は何がいいかな」

源田が楽しそうだ。物凄く。何かキラキラしてる。きもい。
今、クラスが騒がしくて本当によかったと心の底からそう思った。そのままついて行けないでいる俺を置いてけぼりにして、源田が俺の手を握った。

「一緒に住もう、佐久間」
「先ずそれを言えよ!」


隣に居た辺見が「突っ込み所が違うだろ!」と今日一番の大声を上げた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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