僕のすることは全て君の為


余命半年を宣告された妻が、夫に言うんだ。「わたしが居なくなっても困らないように、子供達の為にも家事を覚えて」って。そう告げられた夫は、初めは妻が死ぬってその事実を受け入れられなくて苦しむんだけど、でも散々悩んだ結果、最後に妻の為にやれることをやろうって、それで家事を覚え始めるんだ。
当然ながらその男は家事なんてやったことなかったから最初は酷いもんで。料理、洗濯から始まって、娘の服選び、髪の結い方なんかも。それでもちょっとずつ、ちょっとずつ覚えていくんだ。それって悲しいよな。最後の頼みを聞くってことは、二人一緒に居られない未来を受け入れるってことだ。
それで月日が流れて、もうすっかり寝たきりになった妻が、最後のお願いって、結婚式で流した歌を歌ってくれって頼むんだよ。その歌が、“僕のすることは全て君の為”って、やつで、

「で、思い出し泣きしてるのか?佐久間は。」
「うっせぇハゲ。」

本当に、あの二人は本当に最後の最後までお互いのことを想ってた。心から家族を愛してたんだよな。最後の妻からの手紙にさ、最愛の夫へって、かいてあんだよ。ずっと愛してるって。なんかさ、すごいいいよな。そういうのっていいよな。憧れる。

そう言ったら、源田が俺の腕を引いて自分の脚の間に座らせた。後ろからすっぽり抱き込まれる様なその体勢に、寄りかかる物が欲しかった所だし丁度いいと思いそのまま体重を預けた。

「佐久間」
「…ん」
「愛してるぞ?」
「おまえが言うと薄っぺらい感動が台無しだ出直して来い」
「でも、素敵だな。そういう二人になりたいな。どんな未来が待ってようと、ずっと思い合って、助け合って、」
「…ん、」
「俺は、そうありたい。佐久間が望むことならなんだってしてやりたいし、どんなわがままも聞いてやりたい。佐久間が辛い時や泣いた時、こうして俺が涙を拭ってやる。これから先もずっとだ。」
「ふ、それは、普段俺がわがままだと」
「全部含めて佐久間だろう?俺は心底佐久間に惚れてるんだ。それはわかるだろ」
「…ん。」

佐久間が俺の一番だ。
そう言って、頭の上から源田の笑う気配がした。頭の中でさっきの言葉をリピートし、それだけで機嫌が良くなった自分が許せなくて、源田の腹に一発肘鉄をお見舞いしてやった。


「良い感じで纏めようとしてるけど、おまえテレビでこの話やってる時爆睡してたよな。」
「疲れて…たんだな」
「俺が隣で泣いてるのに、爆睡してたな。」
「…佐久間、鼻かめよ。ほらちーんって」
「おまえって本当にちょっと残念な奴だよな。次会う時までにあの歌覚えてちょっと勉強してこいよ。」
「それは…明日までに覚えろと言うことか。」


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