独り歩きする恋心


「なんで急に、誘ってくれたんだ?」
「恋人は、休日に出掛けたりするものだろう。」
「そうだけど。今までそんなけとなかっただろう?だからちょっと気になって。まあ豪炎寺の事だから、誰かに何か言われでもしたのかなって。」

今日は休日で、部活も午前中で終わり。そんな日は決まって、みんなで日が暮れるまでサッカーするか、円堂達とラーメン食いに行くか。そんな風に過ごすのが殆どだった。だが今日は騒がしいみんなの声は無いし、ここは見慣れたグラウンドや雷雷軒でもない。新しく出来たという、小綺麗なカフェに俺達はいた。ちなみにこの前には映画を見て来たところだ。今話題の、3Dの。必殺技が飛び出すやつ。あれは中々迫力があった。眼鏡をかけた豪炎寺の顔は笑えたけど。
俺は目の前で湯気を出すミルクティーを眺めながら、やっぱりアイスにすればよかったななんて考えていた。

「まあ、そうなるな。」
「誰に言われたんだ?…待て、まさか、夕香ちゃんに」
「いや、音無に」
「待て、何か、つまりは、音無は俺達の関係を知っているのか!?」
「まあ、そうなるな。」
「そんな冷静に言われたくない!」
「あいつはこういった事に目ざといだろう。まあ仕方ないな。」

そう言った豪炎寺の顔は実に涼しく、そのままコーヒーなんかを啜っていた。くそ、大人ぶってコーヒーなんか飲みやがって。しかもブラックなんてあんなのまんまじゃないか。ブラックが飲めて医者の息子だなんてどれだけあれだ!イケメンか!漫画に出てくるクールなヒーローか!常に遅れて登場しておいしいところは全部持ってく気か!
少し話がズレたが、豪炎寺はこういう所がある。つまり、今回はまあ音無だったわけだが、もし豪炎寺の家なんかに行って夕香ちゃんと鉢合わせようものなら、「お兄ちゃんな、風丸お兄ちゃんと付き合ってるんだ。」とかなんとかさらっと言い出しそうだ。豪炎寺なら大いにありえる事だ。そんなの俺が居たたまれない。大好きなお兄ちゃんが同じサッカー部員の、ましてや男と付き合ってるなんて聞いたら、ショックに決まってる。俺だったら嫌だ。

「嫌か」
「それを、聞くのは」
「そうだな。意地が悪いな。」
そう言ってまた豪炎寺はカップに口をつける。一瞬見せた表情は、笑ってたけど、どこか寂しげに見えた。

(それは、俺の罪悪感の問題か。)

だって、俺達はおかしいだろう、豪炎寺。世間的にはどう考えたって、まだまだ理解されない。認められないようなそんな関係なんだ。ましてや俺達は中学生だ。俺はいつだってその事を拭いきれないでいるのは事実だ。
ごめん、と謝るのも違う気がするし、どうしたらいいのかもわからない。俺達のこの関係を、あまり人に知られたくないのも、事実だ。でも、言える事はある。伝えなきゃ伝わらない事もある。それに、豪炎寺が相手なら尚更。こいつは案外鈍感なところがあるから。

「今日、誘ってくれて嬉しかったよ。」
「そうか。」
「こんなに長いこと、二人きりで居たことないじゃないか。嬉しかった。もっと、こういう時間が増えればいいと、思うよ」
「増やせばいい。」
「…うん」
「これからいくらでも、側にいてやれるからな。」

それが恋人だろう?
そう言って笑う豪炎寺はやっぱりかっこよかった。暑くなった頬をどうにか冷まそうと先程の眼鏡姿なんかを思い出してみたがそれは叶わず、俺はせっかく頼んだミルクティーはそのままに、テーブルの上でたっぷりの水滴を纏っている水の入ったグラスを掴んで一気飲みした。


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