今日も、明日からもよろしく


「じゃあ、な、風丸」
「なんだ」
「キスをしても、構わないだろうか。」
「…豪炎寺」
「いや、いいんだ。お前が迷惑だったら、」
「豪炎寺」
「俺はお前、風丸を、一番に考えている。だから、」
「修也」

名前を呼ばれたことで豪炎寺修也の脳はようやく正常に働き出した。ようやく、というのは、先程まではほぼ本能的に、感情だけで、とにかくそれだけで自分を動かしていた。実際動いていたのは口だけで、手や足といったものは数分前のそのまま。一世一代の、生まれて初めての告白をした際のまま、手はもう一人の青年の肩を掴み、足は一定の距離を保ったままただ真っ直ぐグラウンドから生えていた。自分からの告白、更に夢にまで見た両思いというその現実は、完全に豪炎寺の許容範囲を超えていた。

「豪炎寺修也」

もう一度名前を呼ばれる。今度はフルネームで。豪炎寺修也の目の前にいる青い髪を一つに束ねた青年、風丸がため息混じりに呼んだその名前からは不思議と呆れや失望といった様子はなく、どこか安心した、よかった、そういった類いのものだった。

「よかった。何か、豪炎寺なら、接吻とか言い出しそうだと思ってたから。いや、何となくなんだが…偏見はよくないな。すまん」

そんなことはまあいいんだとぶつぶつ呟く風丸の、その、唇に視線が釘付けだった。正常に起動したつもりでいた脳は、やはり所詮ただの“つもり”でそれ以上でもそれ以下でもなかった。じんわりと汗が滲んできた手はそのままに、風丸の次の言葉を待つ。端から見ると、豪炎寺が風丸に無理矢理に迫っているように見える為、人に見られたら危険かも知れない。だがそんなことを考えられる頭はどこにもなかった。数秒にも数時間にも感じられたその空間で、ゆっくりと、風丸が豪炎寺の目を見つめ口を開く。

「キス、しよう。豪炎寺」
「か、ぜまる」
「してくれ。して欲しい。おまえに」

気が付けば辺りはもう暗くなり始めている。風丸の表情が読み取り辛いくらいに。だが、今のこの状況が、豪炎寺にはとてもありがたかった。


「…男前だな。惚れ直しそうだ。」
「はは、そういうことは、俺に言わせてくれよ」



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テーマ「人外ファンタジー」
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