勘弁してください


「おかえりー」

思い身体を引き摺って家に帰ると、佐久間がパーカー1枚で俺のベッドの上で雑誌を読んでいた。趣味の悪いピンクのパーカーから色付いた細い脚が伸びている。思わず俺は持っていたカバンを床に落とした。

「おまっ、何て格好してっ、」
「うっせーな下に穿いてるっつの」

どうやらその下にはショートパンツを穿いているらしい。だからと言ってパーカーを捲って見せるのはどうかと思う。何でもないと言った風に白いショートパンツを見せると、そのまま俺のベッドの上でポテトチップスを口に運んだ。

「佐久間、ベッドの上で物食うなっていつも」
「あ、食う?今日はコンソメパンチなんだ」
「俺はうす塩派だ」
「あれ、源田濡れてる?雨降ったっけ?」

ちょっと待ってて。
そう言ってベッドから起き上り部屋から出て行った佐久間は、水色のタオルとドライヤーを手に持って戻って来た。突っ立ったままでいた俺の手を引いて床に座らせると、その前に膝を着き頭にタオルを乗せ髪をわしわしと掻き混ぜた。水分を含んでじっとりと重くなった髪が少しだけ軽くなる。人に頭を触られるのは気持ち良い。その心地よさに目を閉じると、後ろで小さく佐久間の笑う気配がした。

「なんか、思い出すな」
「何をだ?」
「昔飼ってた犬」
「(…俺は犬か)」

懐かしいなあと呟きながらも俺の髪を拭く手は休めない。佐久間が昔飼っていた犬、というのはもちろん俺も知っている。茶色い毛並みの大型犬で、佐久間の家に頻繁に出入りしていた俺にもよく懐いてくれていた。優しい目をした、大人しくてとても賢い犬だった。もうずっと前、それこそ俺達が小さな子どもだった頃に死んでしまったのだが、その時の佐久間の落胆ぶりを見ていた俺は、子どもながらにとても胸を痛めたのを覚えている。それは数年経った今でも記憶に新しい。

そうしてある程度の水分を拭き終えると、次はドライヤーを手にして屈んだ。大きく開いたパーカーの胸元から谷間が見える。
佐久間と俺とはいわゆる幼馴染みと言うやつで、今更気にするような仲ではないのはわかるが、ちょっとは気にして欲しい。いくら幼馴染みだからと言っても、いくら昔一緒に風呂に入っていた間柄だとしても、だけどどうしたって見てしまうのが男の性だ。俺は気付かれないようにそのままゆっくりと目を逸らした。その後すぐにドライヤーの起動音。調度良い温度に保たれた温風と、優しく触れる指先が今は心地良い。

「あ。先に風呂入ればよかったな。沸いてるぞ」
「…もしかして風呂上がりか?」
「そうだけど?」
「…」


俺も男だ。しかも思春期の。




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