7・蕾の名




あなたを思うたびに疼く

胸の中に宿した

この蕾の名は?


芙蓉◆




暖かい初夏の陽だまりの下で、顔に手を当て瞳を開く。


「うたた寝をしていたのか…。」


無防備にうたた寝などする日がこようとは思ってもみなかったが、恐ろしい事にしばらくこんな生活が続いてくるとそれにも慣れるものである。
まどろみの中で過ごす時間とはゆったりとしている。
こんな時間を自分はあと何回過ごす事ができるのだろうか、まるで魂の休息だ。


「……。」


ウルキオラはベッドから起き上がると、扉の先を見つめた。


「俺は起きたぞ。」

「ホウ、霊圧は感知出来ないはずだが良く解ったネ?」


扉を開けて入ってきた白塗りの男。


「そんなもの、気配で解る。」

「フン…私はコレでも一応、十二番隊の隊長格の死神なのだがネ。」


気配を殺す事はおろか、霊圧も殺気ですらも消す事のできるはずの涅マユリは意味深げにせせら笑う。


「…何が言いたい?」

「いやネ…だがしかし、彼女の存在には気づいていないようだ。」


すぐに後ろを振り向いたマユリに促され栗色の髪を靡かせた制服姿の少女が一人入ってくると、ウルキオラの瞳は大きく開いた。


「…お前は…。」

「こんにちは…。」


彼女の複雑な笑顔は、まどろみの中にあったはずの自分を無理矢理に引き剥がした。

後何回…過ごす事ができるのかと思っていたこの時間…、



「……そうか…、」




――もう、終わりが近いのか。




「久しぶりだね。ウルキオラくん。」



***



思い出すだけで喉の奥がカラカラと乾いてしまう。
胸に杭でも打たれる様に不規則に痛む感覚に一晩中苦しんだ。



「え、珍しい。ぷらすが人見知りなんて。」


阿近に研究結果の件で確認を取りに来ていた少女はかけていたメガネを持ち上げた。


「そうだよね…私もこんなこと初めて…。」


領収証の束の端を机にトントンと叩きながらぷらすは深く溜息をつく。

昨日、ぷらすはウルキオラにコーヒーを差し入れしようと治療室を尋ねたところ、彼と親しげに話す見知らぬ女性と遭遇した。
普段めったな事では人見知りなんてものをしないぷらすだったが、何故かその時は気が動転してしまい持っていたマグカップを落として逃げ出してしまった。
その後直ぐに阿近から事情を聞き、彼女は人間の井上織姫だという事が判明する。

そう。
彼女はウルキオラを復活させた張本人なのだ。

如何しようかと思ったものの、もう彼女帰ったのではと淡い期待を持って夕刻に食事と一緒に注射を行おうと再び訪ねると期待虚しく彼女はまだ居た。
先ほどと同じ、彼のベッドの隣の椅子に…ぷらすの特等席に腰を降ろして。


――「あ、あの。注射とご飯です。」

――「わあ!おいしそうなご飯だね!」

――「……っ、;」


全く違う温度差のある会話。
ぷらすは親しげに接してくる織姫にいつもの調子を失ってしどろもどろしながら配膳と注射を行った。

何故だかウルキオラの顔を見ることが出来なくて、彼が一体その様子をどのような表情で見つめていたのかは定かではない。


――「ぷらす、」


ウルキオラが何かを言いかけたところで、ぷらすはサッと注射器を抜きとり頭を垂れた。


――「では、私はこれで…!;」

――「え?ぷらすちゃんは食べていかないの?」


テーブルに置かれたままのゆうに二・三人前はあろうかと言うぷらす特製料理の数々に、織姫はモノ欲しそうに指を咥えながら無邪気に尋ねてくる。


――「これは全部ウルキオラのだから…っじゃあ失礼しました!!;」

――「あ、待って!」

――「?」


腕をとられ振り向くと、栗色の長い髪がフワリと揺れてシトラスの爽やかな香りが鼻に付いた。


(私も…髪の毛伸ばそうかな…。)


そんなどうでも良い事が過ぎる。
それくらい織姫は綺麗で息を呑んでしまった。


――「これ、さっきのマグカップ。」

――「あ。」


先ほど割ってしまったはずのマグカップは元通りに復元されて手元に返された。

恥らいつつ笑顔で織姫は”私の能力なの。”と付け足した。


傷を癒し、物を復元できる能力。
人間としては類稀なる魅力的な力。

かつては、ウルキオラを従えた藍染惣介もこの能力欲しさに彼女を誘拐したと聞いている。


――「……っ、あ…っ」


癒しの力とは…彼女の容姿からも伝わってくる。
どうしてだろう。
このときぷらすは心の底で”彼女にはかなわない”と感じた。

それが、何に対してかなわないのか…?
ただ本能的にそう思った。


――「あの、ありがとう…。」


笑顔になる余裕は無かった。
一礼すると再び足早に部屋を去った。

その後姿を織姫も、そしてベッドに居た彼もまた浮かない表情で眺めていた事をぷらすは知らない…。






「それにしても、わざわざこんな所にまで面会しにくるなんて…井上織姫とその破面てデキてるんじゃないですか?ねえ、阿近さん。」

「なんでそこで俺に振るんだよ。」

「だって、さっきから気になってるんでしょ?ガールズトークに聞き耳立てないで下さいよ。」

「…お前な…;」


ぷらすが昨日の事を思い出しているとメガネ少女は阿近に突拍子も無く会話を振る。
書き物中の阿近は背を少女二人に向けたままだったが一連の会話は聞いていたらしく居心地悪そうに頭を掻いた。


「ねえ、阿近さんデキてるって何?」

「あ?」

「ぷらすったらそんなことも知らないの!?;」


ぷらすの問いに阿近も思わず振り向いたが、いざ三人で目を合わせると妙な沈黙が支配した。
少女の曇り無き眼が再度、阿近の瞳をしっかりと見つめ聞き返す。


「デキてるって何?」

「……;それは…、」


何とも言えず、阿近は口ごもる。


「男と女の関係ってことよ、ぷらす。」

「おとことおんな?」

「オイ、ぷらすに変なこと吹き込むなよ。」

「何にも教育してこなかった阿近さんがいけないんです!もう、局長と言い揃いも揃って男連中はそういうこと隠したがるんだから!」

「?」


阿近の静止を蹴散らすかの如くメガネ少女は不敵な笑みを見せるとぷらすに向き直った。


「ぷらす、男と女の仲って言うのはね、要は付き合ってるってことよ。」

「付き合う…?」

「お互いに恋愛感情を持って相思相愛って意味。んー確かにぷらすと親しい技局員の中で既婚者ってあんまり居ないから難しいけど…。;」


変人・奇人揃いの技局面子ではまあ浮いた話が無いのは当然といえば当然。
ぷらすがココまで恋愛云々に疎いのもこういった環境が実は大きく作用している。


「それは私とお父さんがお互いに好きなのとは違うの?」

「それやっちゃうと近親相姦だから…;」

「きんしん…?」


話の雲行きが怪しくなった所で阿近の書き物をしていた筆が止まった。


「お前ら仕事中にいい加減にしろよ。」

「ねえ、阿近さん。」

「?;」


再び彼女の綺麗な瞳が阿近に向けられ、阿近は一瞬しまったと内心。


「阿近さんは私の事好き?」

「「は!?;」」


ぷらすの爆弾発言に思わず硬直してしまう阿近とメガネ少女。
阿近は咳払いしながら”それは…”と濁しているが、ぷらすに何と返せば良いかも解らない。


「阿近さんが、もし私の事好きだったらそれはきんしんそーかん?」

「…違う!;…違うが…;」


違うが…別の意味で犯罪染みたものがあるのは変わらない。

平常心を装いながらも一気にコーヒーを飲み干す。
”キター!”とばかりにメガネ少女の瞳が輝き自分が如何ぷらすに返答するかを待っていることに気づかないほど、阿近も落ちぶれては居ないのだ。


「…ぷらす、お前そろそろ破面の昼の薬品投与と食事の時間だろ。」

「う…;」

「あ!逃げるなんて阿近さんずるいですよ!」

「うっせえな、お前とっとと持ち場にも戻れ。」


後ろ髪引かれながらもメガネ少女が退散する。


「おい、ぷらす。」

「うん、解ってる…。」


「……。」


いつもならば促されずとも時間通りに治療室に足を運ぶ彼女が、今日は何とも浮かない顔な事か。
彼女自身より彼女を知る阿近だからこそ大方少女の悩みの本当の名に予想は付いている。


人見知りなんかでも、苦手意識なんかでもない…それは



(嫉妬…。)



昔から大事に育ててきた少女の横顔は、いつのまにか女染みた顔をするようになった。
男の傍で笑う女に対し、どうしようもない憤りを滲ませる女の嫉妬…。
コレが自分に向けてくれた感情ならばゾクゾクとした悦に浸って笑いたいところだが、残念ながら彼女の対象人物は自分ではない。
そんな事はもうとっくに解っている。
解っているが、



(だからって、教えてやるつもりは微塵もねーがな。)



誰が惚れた女に、他の男への恋心など認めさせてやるものか。


阿近はしばらく黙ったがすぐに短く息を吐いた。



「はあ、解ったよ。俺も一緒に行ってやっから準備しろ。」

「本当!?」


パアと明るくなったぷらすを見て、自分は本当に駄目な保護者だと思いながらも彼女の余りの可憐さにまんざらでもない笑顔を返した。


技局内には泊まりがけで仕事をする死神も多い事から給仕室の他に簡単ではあるが調理室のようなものが研究室の並びにある。
最も、普段は小さな食堂があるので使われる事は早々無いのだが。
この調理室でぷらすは料理を作り、食事の時間まで冷蔵庫で保管する。(ぷらすも他に仕事がある為なかなか作りたてを提供するのは難しい。)
現世の文化を真似して作られた電子レンジ(の様な物)で食事を温め直し、量が多いため食器を載せたトレイは阿近が持った。
そして彼の待つ治療室へ足を運ぶ。


「井上織姫は、ただ見舞いにここへ来たわけじゃないぞ。」

「え?」


阿近は言う。


「局長が、数日前から人間を一人招待したいと上に手続きしていた。」

「…お父さんが…。」

「死神代行ならまだしも人間の魂魄をココに連れ込むにはそれなりに手順が要る。そんな面倒までしてあの局長が井上織姫を破面のアイツにただの見舞いで会わせるとは思えない。」

「じゃあ、もしかして…」

「井上織姫の力を借りる事にしたのかもしれないな。となると、しばらく井上織姫はココに滞在するのかもしれない。」


暗雲立ち込めたかのようなぷらすの表情。
阿近は見逃さないで居たが気づかないフリをした。


「まあ、俺達には俺達の仕事があるんだ。所詮は破面と人間、あんまり深入りしたって意味はねぇ。…どうせ、アイツも直に虚圏に帰るんだ。」

「…。」


その言葉に、ぷらすは首を縦に振ることは無かった。
阿近は自分のついた嘘に対する痛みを押し殺すように、拳を握った。


「あ、ぷらすちゃん!こんにちは!」


扉を開くと、ソコには昨日のデジャブかと言うくらいの満面の笑みの織姫がぷらすを迎えた。


「あれ?その方は?」

「あの、阿近さんって言って…私の上司です。」


おずおずと紹介したぷらすに対し、織姫は社交的に頭を下げて笑顔で言う。


「こんにちは、阿近さん。昨日から涅隊長に呼ばれて少しお手伝いに来てます、井上織姫です。」

「どーも。」

「……。」


いつも明るい織姫は本来ならばぷらすもとても好きな人間の部類だ。
普段技局と言う閉鎖的な空間に居るからこそ、外の人間や死神には興味があるはずだが…しかし今は織姫よりもその隣にいる彼の存在が気になって、結果として織姫をしっかりと受け入れられずにモヤモヤとした気分になってしまう。


(やだな…私、どうしたんだろう。)


扉の脇でただ立ってるだけの阿近はこの先手伝ってはくれないらしい。
ぷらすは覚悟を決め久方ぶりにしっかりとウルキオラを見たときだ。


「それ…。」


彼が手にしていたものに視線を奪われる。


「あ、これね。私が働いてるお店で作ってるパンなの!ウルキオラくんに食べてもらおうと思って、良かったらどうぞ!」

「……あ…、」


ふっくらとした狐色に焼かれたおいしそうなパン。
バスケットいっぱいに入ったそれらの一つを差し出す織姫は、直ぐにあることに気づいて慌てた。


「あ!;もしかしてぷらすちゃんそのご飯ウルキオラくんに!?;ごめん私ったら余計な事しちゃって…!;」


阿近が持ったままの食事、ぷらすはパンを受け取ると搾り出したかのような笑顔で言った。


「私のはいいの!せっかく井上さんが持ってきてくれたものだもの、これは…阿近さんと!」

「俺?」


ぷらすは阿近に駆け寄ると、彼の袖を引っ張った。


「阿近さんと後で二人で食べるから、二人は気にしないで。ね、阿近さん!」

「…あ、ああ。」

「え…そう?;ごめんね、ぷらすちゃん。」


いきなり同意を求められても、普段余り食の太くない阿近にとっては多すぎる食事だが作ったのがぷらす本人とあれば別物である。
二つ返事で阿近は頷いた。


「じゃあ、私達はこれで…行こう、阿近さ「待った。」


「!」


背を向けたとき、今まで黙っていたベッドに居た青年の声がその足を止めさせた。
恐る恐る振り返ると、その翡翠の瞳に飲み込まれそうになる。


「俺が食べる。」

「「「え。」」」


ここで、青年以外全ての人間が同じ言葉を発した。


「…ウルキオラ…?;」

「お前は、集中力が切れると直ぐに注射の腕が悪くなるな。」

「え…?」

「昨日から針を指す位置が悪すぎるといっているんだ。これで料理も手抜きされたら後が困る。」


いつも通りの毒づきにぷらすはどこかでホッとしたような泣きたくなるような複雑な感情が渦巻いた。


「あの、ごめん…なさい。」


結局ぷらすの作った食事は彼の部屋に置いていく事になり、二人は部屋を出た。


「……飯でも食ってくか?」

「え?」

「食堂、奢ってやるよ。」


悪戯気に笑った上司の顔、そこでようやくぷらすは自然な笑顔になった。


「うん。」


(阿近さんと一緒なら、普通に笑えるのに…。)



***



「あ、ぷらすちゃーん!」


マグカップを持って給仕室に向かおうと歩いていると後ろから声を掛けられてぷらすの体は大きく反応する。
そこには井上織姫。


「さっきは…、」

「さっきはごめんね!私全然考えなしで…パンなんか持ってきたりして。」

「あ…。」


再び謝られるとは思っておらずぷらすはどうして良いのか視線をそらす。


「ねえ、ぷらすちゃんって人見知り?」

「え?…ううん、違う。」

「あれ?そうなの?…何だか私嫌われちゃってるのかなあって思って。」


面と向かった相手に嫌われていると発言する織姫にぷらすは些か驚いたが彼女に悪気が無いのは解る。


「そうじゃないの。」

「?」

「その…織姫さん綺麗な人だから。」


しっとりとした柔らかそうな栗色の髪。
大きな瞳に筋の通った鼻、そして女性らしいぽってりとした唇。
身長はそこまで高くないのに見事な曲線美で造形された体のラインは同じ女のぷらすでも見惚れてしまう。



「綺麗な人だから…緊張してるのかも。」

「”かも”…?ふふ、ぷらすちゃんったらおかしいね。」


口元に手を当てて笑った織姫は”ちょっとお話しよう?”とぷらすを誘った。
客人からの誘いを断る事もできずに、近くの空き研究室に彼女を通して適当な椅子に腰を降ろす。


「織姫さんは、何でウルキオラのこと助けようって思ったの?」


何を話せばいいものかと悩んだ末にでた言葉は、やはり彼についてのことだった。
しかし、なかなか核心的な所を突く質問に織姫は一瞬目を見開く。


「何でだろう…。悲しそうだったからかな。」

「悲しそう?」

「ううん、でも違うかも。妙に穏やかそうだったからかもしれない…。でも彼はココで終わってはいけないって、私も黒崎君も思ったから。だから助けた。」



黒崎一護。
死神代行の彼の名はぷらすですら知っている。


「あの時、私の力じゃどうしようもない所までいってしまっていたから、涅隊長にお願いするしか出来なかった。でも、今回こうして彼の為にまた力になれることがあって嬉しい。ウルキオラくんの姿見てホッとしたもん。」

「そっか…。」

「でも、ココに来てウルキオラくんも色々変わったみたい。」

「そうなの?」

「うん、前はもっと冷たい目をしてたって言うか…誰にも心を開いてないみたいだったもの。昔は私のパンなんて受け取ってくれるような人じゃなかったし。」

「……。」




昔のウルキオラを知る彼女をぷらすはなにかフツフツと湧き上がる様な気持ちで見ていた。
握っていた空のマグカップの取っ手をギュッと握り締める。

席を立ちたい衝動に駆られた時だ。


「きっと、ぷらすちゃんのおかげだね。」


織姫の言葉に、予想もしていなかったぷらすは顔を上げた。


「え?」

「だって、ぷらすちゃんがずっとウルキオラくんの隣についていてくれたんでしょう?だから、今のウルキオラくんがあるのはぷらすちゃんのおかげ。」

「そ、そんな事無い!」


大きくかぶりを振った。
だってそうだ、今のウルキオラが存在しているのは織姫が彼を欠片でも復元し父であるマユリがそれを完成させたから。
自分はウルキオラに学ばせてもらってばかりで、せいぜい料理くらいしか作っていない。

違う違うと否定するぷらすに織姫は小さく苦笑の声を漏らした。


「ぷらすちゃんって、涅隊長の娘さんなんだって一番最初に技局に案内されたときにネムちゃんから聞いたよ。」

「あ…うん。」


尸魂界きっての天才と呼ばれる父。
その血液を受け継いで造られた姉。
家族であっても、ぷらすはどうしたって彼ら二人の間には立ち入れない場所がある。

しかし、織姫は何の世辞染みた所無くこう言った。


「その後、ウルキオラくんと面会して私思ったの。ああ、涅隊長は良く解ってるなって。」

「え?」

「ウルキオラくんに欠けていた欠片を埋めるのには、ぷらすちゃんが必要だったんだってこと。…ウルキオラくん、あの後ご飯全部食べてたよ?」

「――…っ。」


聖母の様な優しい微笑みを受けてぷらすの顔はほのかに朱に染まった。
頭の中で先ほどメガネの少女が話していた内容が浮かび上がる。


「織姫さんは…、ウルキオラと付き合ってるの?」


つい言ってしまった途端にぷらすはしまったと思った。
幾らなんでも織姫に失礼だったのではと見つめると彼女はあっさりと言った。


「付き合ってなんか無いよ!私好きな人いるもん。」

「へ?;」


まさかソコまで答えてくれるとは思って居なかったので肩の力が抜けたような声が出てしまう。


(二人は付き合って無い…。)



同時に胸奥の痛みが徐々に引いていくのが解った。



(ご飯…全部食べてくれたんだ…。)



喉のカラカラも、もうどこかへ行ってしまた。



(あれ?私、何か元気になってきたかも…?)



でも、何でだろう?



「面白い事聞くのね!そっか、だからぷらすちゃんに避けられちゃってたんだ!私はてっきり二人が付き合ってるものかと思ってたから…」

「え?」


織姫は全ての辻褄が合致したかのように確信的な微笑みを見せた。


「もう、綺麗だからなんてお世辞言わなくってもよかったのに!ごめんね気を使わせちゃってたみたいで…なるほど、片思い中だったんだね!」


(何?;)


「どういうこと?」

「え?だからぷらすちゃん、ウルキオラくんと私の事でヤキモチ妬いてたんでしょ?」

「!?」


(ヤキ…モチ…?;)



それは、つまり…、



「私が…?」



自分が、この目の前に居る美少女に対しウルキオラを取られた事で…?



「だって、ぷらすちゃんさっきウルキオラくんに話しかけられたとき…」



織姫の言葉に、ぷらすの黒曜の瞳が揺れた。



「一目で解るくらい、恋してる女の子の顔…してたよ?」




――あなたを思うたびに疼く胸の中に宿したこの蕾の名は?



まるで呪文の様だった。



「恋…。」



織姫はゆっくり頷き、完全に硬直してしまったぷらすの頭を優しく撫でた。
しかしぷらすは顔を朱に染める反面、阿近の言葉が脳裏を巡る。



(どう…しよう…。;)




――「深入りしたって意味はねぇ。…どうせ、アイツも直に虚圏に帰るんだ。」




(ウルキオラは、破面なのに…。)



…自分は死神なのに。




「?…ぷらすちゃん?」




花咲く前から解っている

それは叶う事など有り得ない、

禁断の…初恋の花。



「私…っ、」




なのに、




「私は…ウルキオラが好き…。」




最後に浮かんだのは、紛れも無い。
自分から全てを奪った、あの翡翠の瞳。





蕾のままなら未来永劫。

咲いたら最後、

たった一日で枯れて

散ってしまう芙蓉の花。





私はその蕾を

こんなにも

膨らませてしまった。







-------

ようやくゴールが見えてまいりましたよ…!;


2012.05.10up




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