4・青い鳥




紛い物の巣穴でも

そこに住まう青い鳥は

果たして現れるのだろうか?




芙蓉◆






「何故、ぷらすを指名したんスか?」




薬品と薬品を混ぜた匂い。

無数に置かれる精密機械の中で涅マユリが試験管に手を伸ばした時、血相を変えて入ってきた阿近が開口一番にそう投げかけた。


「ノックぐらいしたまエ。揮発性の有害物質を扱ってたらどうするんだネ。」


いらだった様子の阿近に対し、一向に試験管の中身を見続けるマユリ。


「……何かあったのかネ?威勢が良い。」


クツクツと喉で笑う。


「…何故、ぷらす何スか?何故今更あの子にこんな科学者の真似事を…」

「オヤ、あの子は楽しげに破面の面倒を見ているとネムから報告があったが。何か問題が阿近にあるのかネ?」



――「ウルキオラがね食べてくれたの。」



「……っ、それは…」

「愚問だネ。私はただ適材適所としてあの子を配置しただけの事だヨ。」

「適材適所…?コレのどこが?」


解らない。


「薬品投与なら俺や他の局員でも出来ます。…そもそも回復だけを待つならば世話役をつける必要がどこにあるんですか?あんな…」

「”あんな、危険な男に?”かネ?」

「……、」

「案ずる事はないヨ。ヤツはぷらすに手出し出来ない。」

「何を根拠に…っ」

「根拠?ハテ、科学者は根拠無くしてモノは言わないがネエ。」


マユリは試験管を置くと手を拭い阿近に向き直った。


「あの破面の男もさながら、私達の毒に似た物を持っているという意味だヨ。」

「毒?」

「過去に危険分子として排除されていた私達は、思想だけ見て取れば死神より破面側に近い存在だということだ。」

「……。」


マユリは机の上の書類の山から一冊の冊子を阿近に手渡した。
それは彼自身の文字で綴られた瀞霊廷宛の実験経過を記す日誌。


「…毒を持って毒を制すとは良く言ったものだが、全ての毒にそれが効くわけではない。…むしろプラスとマイナス、全く真逆の化学反応を持ってして解毒する事だってある。」


数ページその文字を読み解くと阿近の表情が変わってゆく。


「…これは…っ、…」



***




幸せの青い鳥。

ある者はそれを他愛も無い日常にこそ飼い馴らせるのだと解いた。

真の幸せとは、理想を求めた先ではない…ふと足を止め息をついて茶を飲むその瞬間。




そう、まるであの少女の中にそんな鳥は住んでいる。

彼女に出会って初めて自分は青い鳥を見た気がした。





「どうしたの?食が進んでないようだけど。」


コーヒーが入った専用のマグを唇から離すとぷらすは小首を傾げていった。


「進むも何も、お前は俺を太らせたいのか?」


対する翡翠の瞳を持った青年は半分ほど平らげた茶碗をトレイに乗せると湯呑みを掴む。


「別に太らせたいわけじゃないけど…。」

「ならば問題は俺ではなく、この飯の量のだろう。」

「え、そう?」


うんざりしたような表情でぷらすと目の前にある大量の料理を睨んだウルキオラ。
食事を乗せたトレイにはしょうが焼きに豚の角煮、頭つきの煮魚、肉じゃが、とんかつ、とどめの牛丼と信じられないスタミナメニューがどれも大盛りでよそわ

れていた。


「知らなかったなー、破面って死神と違って食事を取らなくても生きていけるんだね。霊子が濃い虚圏に居たときは、ご飯とか味わった事無かったでしょ?」

「……。」


ウルキオラが食事を取るようになって数日。
ぷらすは彼の毎回の食事を自分で調理し出していた。
顔色の悪い彼を気遣い、少しでも精が出るものをと思って考えたメニューは見事にウルキオラの胃に入る量をオーバーしているものだった。


「味わう味あわない以前に、とても病人に出す料理と量ではないと思うが。」

「ウルキオラに早く元気になって欲しいなと思って作ったの!」

「……元気に、か…。」

「うん!」


破面の問いかけに屈託の無い笑顔で返事する死神。
肩に止まった小鳥が啄ばむ様に、それは歯がゆくてどこか心地良い穏やかな一コマ。
この二人を滑稽だと、神は笑うのだろうか。


光と影に等しく同じ魂同士でも相反する二つの存在なのに。


窓を見上げれば晴天、庭に咲く芙蓉の花は今日も優しい紅色に色づいている。
彼女の好意で芙蓉の見える治療室に移ったのは、昨日の事だ。

意外と気配りが利く少女は少しずつウルキオラの外堀を埋めながら、甲斐甲斐しく世話を焼く。

一日一日、彼女が笑うたびに自分の真へ近づいてくるのが解る。
自然とそれを拒む気持ちにはなれなかった。


「お前はいつも、幸せそうだな。」

「え?」


「いや…料理の前に、少しは医学書でも読んでは勉強したらどうだ。注射の腕も相変わらず酷いしな。」

「!?;やっぱり注射痛かったの?」

「……。」


今まで一日に三回定期的に行っていた注射はウルキオラに苦痛を与えていたのだと知り、ぷらすは顔を蒼くした。
その反応にウルキオラは一瞬、言わなければ良かったと脳裏を掠める。


「ごめんなさい。私、今まで阿近さんからそういう勉強をするのを禁止されてて…」


シュンと肩を落とした少女。
無知だとは聞いていたが、学ぶ事自体を禁止されていた事は知らなかった。



(それは何故だか解らないが。)



「…あの角の男は、お前の何だ?」

「え?」


湯飲みを手にウルキオラが真っ直ぐぷらすを見つめた。
一瞬、ぷらすは息がつまる様な喉元が熱くなる様な感覚に陥る。


「うん…と…何だろう?今は阿近さんの秘書だから私の上司なのかな…」

「…。」

「でも、阿近さんは物心付く前から私の面倒を見てくれてて…私昔から友達とかも居なくて、いじめられたり寂しいときとかに一緒に居て守ってくれてて…」

「だから?」


見つめる翡翠…澄んだその色にぷらすはいつもドギマギしてしまう。


「お…お兄さん?かな。」


今まで阿近の事など人にわざわざ話す必要も無かったため(いつだって”セット”扱いされてきたのだ)搾り出したようにその存在の答えを出す。


「…そうか。」


途端にウルキオラは視線を湯飲みの底へ移した。


「…随分と報われないな、あの男も…」

「?…どういうこと?」


その時、扉のノックと共にメガネをかけた少女が顔を出す。


「ぷらすー?あ、やっぱりここに居た。」

「どうしたの?」

「もう、どうしたのじゃないわよ。涅局長が呼んでたわよ。あと、今月の領収書の締め切り今日までなの覚えてる?」

「領収書!!;…忘れてた。…お父さんが?」

「多分局長室に居ると思うわよ〜。領収書はその帰りに寄ってくれればいから。」

「うん!じゃあ、ウルキオラ次からは注射気をつけるね、また夕方に。」


ぷらすは慌しく残された食器類をまとめるとメガネ少女と一緒に廊下に消えて行った。



「……騒がしいヤツだ。」



でも、存外嫌ではない。

小鳥の囀りはいつだって耳に楽しいものだから。




***




「良いんですか〜、副局長。」

「ああ、何がだよ。」


空になったマグカップは薬品やそれに関する本で埋もれていた。
もう何日も自宅に帰っていない阿近は、欠伸をするとメガネ少女の手にしていた書類に判を押す。


「ぷらす、何だか最近ずーっと治療室に入り浸ってるみたいじゃないですか。さっきだって私が引き離しに行くまで破面と二人っきりで楽しそうにしてましたよ。」

「……。」

「でも、破面って聞いてたからどんなもんかと思ったけど、なかなかイケメンですよね〜!目つきは阿近さん並に悪いけど、瞳の色がすっごくキレイ。」

「悪かったな。悪人顔でよ。」

「へへっ!」


破面がここに来てから数日。
ぷらすはウルキオラと打ち解けて以来、この研究室を留守にする時間が増えていた。
元々、朝・昼・夕と決まった時間に薬品投与があるため小まめにケアはしなくてはいけないがそれにしても…と言うのが他の局員から見てとれる。

以前は何かにつけて阿近の後ろをウロチョロしてはドジを踏む彼女だったが、今はそれもなくすっかり局内は静かになってしまっている。


「リン君が”お茶友達が居なくなって寂しい〜”って嘆いてますよ。」

「アイツ、ぷらすの事そんな風に言ってんのか。」

「ふふふ、ぷらすが来ればリン君も鵯州課長に咎められることなくお菓子食べられますからね。」

「ったく。」


判を押し終えた書類を手に、少女はメガネを指先で直しながら意地悪げに笑って言った。


「それに、阿近さん最近元気ないって皆言ってますよ。」

「なんだそりゃ。」

「なんか仕事にも気合入ってない感じだし。」

「俺はいつもこうだ。」

「やたら喫煙所に居る事増えましたし。」

「…コーヒー、淹れてくれる部下が居ねえからだよ。」

「ふーん、まあ良いですけど。幾らぷらすでももうお年頃なんですから、そろそろ手綱を握って下さいねってことですよ。では、失礼しました〜。」


メガネ少女が去ると、研究室はまた静けさを取り戻す。


「……はあ、…。」



(手綱ねえ…。)


そんなもの、握る前に柵で囲っている。…と、以前の阿近ならば戸惑いなく思えただろう。
しかし今は少し、以前とは違った心情に居た。
それは紛れも無く、あの翡翠の破面の影響で。


響くのは時計の秒針と、火にかけていたままのビーカーの湯が沸騰する音。
書きかけの報告書の筆を持ち直す気にもなれず、阿近は引き出しからタバコを懐にしまって席を立とうとした時、背後の扉が開いた気配を感じた。


「オイ、判は押したんだからいつまでも言うんじゃ…」

「あれ、阿近さんお出かけするの?」

「―!…ぷらす。」


現れたのは今しがた噂されていた少女。
空になったマグカップをと分厚い冊子を手に阿近に近づく。


「あー、やっぱりマグカップ埋もれてる。阿近さん自分じゃ絶対コーヒー淹れないんだから。」

「…破面の所じゃなかったのか?」

「お父さんに呼ばれてたの、遅くなってごめんなさい。」

「!…何か、聞いたのか?」

「え?」


阿近が一瞬眉をしかめるとぷらすは小首をかしげる。


「…ううん、ウルキオラの様子を聞かれただけだけど。」



”ウルキオラ”。



「…そうか…。」



ぷらすがその名を口にするたび、阿近は内心チクリと何かに刺される痛みが走った。


「変な阿近さん。…はい。」

「?…なんだ?」


何も無い掌を広げられ今度は阿近が首を傾げると、少女はいつもの笑顔で言った。


「コーヒー、淹れてくる。」

「……。」

「飲まないの?」


幼さの残る初心な生花を思わせる笑顔。
ほんの数日見る回数が減っただけで自分は何故こうまでこの少女に欲してしまうのか。


(ああ、まただ…。)


摘み取るか摘み取るまいか

欲望と自制心の小さな葛藤。


時よ止まれと願う自分。



「いや…、今日は。」

「?」


広げられた白い掌を血色の悪くゴツゴツとした自分の掌で握り締める。


「たまには気分転換。ちょっと面貸せよ。」

「え…?あ、阿近さん…!?」


ぷらすを連れ去ると二人は中庭へ出た。


「阿近さん!今日納品予定の義骸、まだ残ってるんでしょ!?」

「あー…、知らねぇなあ。」

「どうなっても知らないよ。」

「良いんだよ。残業すればどうにでもなる。俺を誰だと思ってるんだ。」


技局の鬼。
その異形から付いた名をぷらすが口にしたことは一度も無い。


「……もう。」


繋がれた手と手を振りほどく理由はお互いに無かった。
彼女が幼い頃からこうして二人歩いてきたから…今はそんな必要は無いけれど、ぷらすはごくごく自然なままに、阿近はそれを知っていて意図的に。


「芙蓉の花、どんどん咲いていってるね。」

「ああ。」


特に大した会話も無い。
研究室に居るときと同じく二人は中庭の芙蓉をただ黙って一通り眺め歩いた。


「阿近さん。」

「ん?」

「コーヒーなんてわざわざ飲まなくても、タバコ研究室で吸って良いんだよ。」


不意の言葉に阿近は一瞬頭の中を白くする。


「知ってたのかよ。」

「うん。」


阿近は手を懐に添え、死覇装ごしにあるタバコをなぞった。


「副流煙って知ってるか?それだよそれ。」

「気にしないで良いのに。」

「そんな訳にもいかねぇ。」

「もしかしてお父さんに言われたの?」

「……。」


不満気に手を引っ張ってこちらを見張る少女に、阿近は穏やかな笑顔で言った。


「……、ああ。」



摘み取るか摘み取るまいか

いつも自分は躊躇する。



「阿近さんはお父さんの言う事聞きすぎだよ。」



何故なら

摘み取る蕾が余りにも清らかで

その清らかさに惹かれるからこそ

触れた途端に汚してしまいそうなこの手が怖いから。



「そんな事ねえよ。」



そんな事無い。

タバコを止めた本当の理由も

彼女を摘み取らない理由も



結局、自分のエゴで決めてるだけの事なのだから。



「やっぱり阿近さんは優しいね。」

「……。」


利己的で打算的で、なのにこの少女にはそれを知られたくない卑怯者。


「ぷらす。」

「ん?」



「あの破面には、余り近づきすぎないほうが良い。」

「え?」



夏の始まりを告げる南風が中庭を吹きぬけ、芙蓉の花々を揺らした。
花の香りに乗って、短い少女の黒髪がフワリと舞う。


さながら一枚の絵画の様だ。



「…心配しなくても大丈夫だよ。私なら無理してないし、ウルキオラはそんなに悪い人じゃない。」

「…っ。」


阿近は黙ってぷらすの手を解くと、そのままその手を彼女の頭の上に置いた。
撫でるようにして黒い絹糸を絡めるとそこに唇を乗せる。


「何?何か付いてた?」


瞳を閉じて大きく芙蓉の香りを吸い込んだ。


「……何でもない、ただ…」




”花の香りが、お前にも移ってるんじゃないかと思っただけだよ。”




芙蓉の花は、

やっぱり苦手だ。




***



「………。」


この部屋に移ってからと言うものウルキオラは大抵芙蓉の見えるこの中庭を眺めていた。
季節感は皆無の虚圏とは違い、建造物や自然の色に溢れたこの景観は悪くない。
窓から入ってくる南風と共に芙蓉の香りが混じった陽だまりの中、ウルキオラは中庭で佇んで会話する二人の死神を黙って見ていた。

ここは二階、彼らの声は聞こえない。
それでも解るほど二人の男女は親密な色を醸している。


「兄などと、よくも言った物だな…。」


返事など求めていない独り言。
しかしウルキオラは直ぐにドアの方向へ顔を向けた。


「随分と今日は時間が遅いんだな。」

「私はキミと違ってネ。忙しいのだヨ。」


現れたのは白塗りの科学者。
マユリはカルテと数冊の本を小脇に抱え近づくと革張りの本の方をウルキオラに手渡した。


「いつも窓ばかり見ている。とあの子から聞いているヨ。暇な時間を持て余すのなら読めば良い。」

「……。」


無言で受け取ったウルキオラに対し、許可も無くマユリは診察を始める。


「フム、経過は順調のようだネ。」

「……。」


心音を聞き、脈を計り、瞳孔を確認し、薬品を投与し、採血を済ませる。
一連の流れに無駄な動きは微塵も無い。


「どうだネ?調子の方は。霊圧の回復は無くとも大分自分の言う通りに体が動き出す頃だヨ。」

「……。」

「ぷらすに言われて食事を取るようになったそうじゃないかネ。」


意味ありげに笑う男にウルキオラは一瞬でも目を合わせない。


「…随分と、初めの頃より前向きになったものだヨ。」

「何が言いたい。」

「……クック!」


カルテに一通り数値を書き込みながら、笑うだけ笑って核心を与えないマユリ。


「つまらない程に問題ない。明日からはリハビリも兼ねてその辺を散歩でもしたまエ。」

「……問題ない、か…。」


南風の温かさが、芙蓉の香りがやけに部屋に充満する。


「いい加減その猿芝居にも見飽きた。」

「…何?」



ウルキオラは初めて目を窓から外した。




「俺を蘇らせた本当の目的は何だ?」




翡翠の眼光は鋭く、霊圧を纏わないのが不思議なほどの殺気を漂わせる。
その”圧”にうろたえもせず、マユリは無表情に言った。



「……最初に言っただろう。情報収集だヨ。」

「情報収集?笑わせるな。」


胸元で合わせになった着物の裾を引き、白い肌を露にするとウルキオラ。


「ならば、何故孔を塞ぎ仮面の欠片を剥いだ。」

「……。」

「”情報収集”と言うならば、本来通りに蘇らせてこそ取るのが科学者のセオリー。」

「…フン、小賢しい。素人が偉そうな事を言うんじゃないヨ。」



「この体になった途端、空腹感が湧くようになった。」

「……。」


霊子濃度以外では枯渇の土地、虚圏に住む破面の体ではありえない食欲。
渡された革張りの本を手に取りマユリに向ける。


「そしてお前は今歴史の本…知識を俺に与えた。」


ただの被検体に過ぎない自分に。


「孔が無い、仮面が無い、腹が空き、知識を持つ。…鏡を見た、今の俺はまるで…」

「……。」



疑心は、核心へ。



「まるで死神の様だ。」



導き出された、その答え。



「…ッチ、だからもっと単細胞なエスパーダを選べと言ったんだヨ。」

「……。」


一度舌打ちし不機嫌に表情を歪めたマユリ


「死神の様だと?…図に乗るんじゃあ無いヨ。」

「…。」


しかし、次には元の感情を逆撫でするほくそ笑みに戻った。
青い鳥を心に飼うあの少女の父親とは到底思えない。



「…あの子はどうだネ?一緒に居ると心は洗われるかネ?」

「!」


予知していなかった質問と彼女の名に、真意を見出せずウルキオラの眉がピクリと動く。


「……どういう意味だ。」

「死神も…”一概に悪くない”そんな思考がたまに頭を過ぎるんじゃないかと聞いているんだヨ。」

「……。」

「良いだろう。黙っていても仕方あるまい。」


カルテを閉じ、いつも少女が座るベッドサイドの小さなパイプ椅子に腰を下ろすマユリは挑発するようにこちらを見た。


「…あの戦いが終結し、護廷十三隊の欠員は深刻さを極めた。」

「……。」

「中央四十六室は力の弱まった瀞霊廷につけ入る敵の存在を恐れたようでネ。」



黄金色の瞳を奇妙に動かしながらマユリはまるで他人事の様に淡々と語りだす。



「情けない話だヨ。天下の四十六室は再び破面クラスの敵が現れた際、私達十三隊では力不足だと思ったらしい。そこで白羽の矢が立ったのは、意外にも戦犯である藍染だった。」

「……。」

「破面は確かに強暴だが、手なずければこの上なく利用価値は高い。そこに目をつけた藍染は本当に、強かで賢い男だヨ。」



かつて自分の主として敬った彼を、戦犯として聞く日が来るとは…。



「何のことはない一死神のヤツでも出来たのだ。…我々もその発想に肖ろう、とネ。」

「…発想…?」



ニンマリと弧を描く、邪悪な笑顔。



「この私が、今更破面のデータなど欲しているかと思うかネ?」

「……。」

「ここにも正義だけでは語れない裏の歴史は幾つもあるが…コレほどまでに滑稽な計画、私も初めは耳を疑ったヨ。」


滑稽…?


「…何を…っ。」

「”破面完全死神化計画”…それがこの計画の名だヨ。」

「……!」



幸せの青い鳥。

戦いの中には羽ばたく事の無い、平和な日常にしか巣食わない何とも弱く儚い鳥。





「私もキミも、結局は瀞霊廷に捉えられた駒の一つ。抗う術は残っていない。」





――「ウルキオラに早く元気になってほしいなと思って作ったの!」


再び目覚めたこの世界で、
彼女に出会って初めて自分は青い鳥を見た。
そして
いつの間にか彼女が飼うその鳥が
自分の紛い物のこの体にも巣くうのを
密かに待った自分がいた…。





「…もう解っただろう?お前はこの尸魂界の護衛の為に再び蘇らせた…」




なんと哀れな願いだったのだろう。




「中央の”番犬”なのだよ。」






青い鳥よ

求める度に

逃げるのは何故。






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2012.03.07up

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