Una ragazza rossa


──

──


『……ここ、が』


“レガーロ”

そう呟いて、ひとり少女が
島に降り立った。

少女の瞳は灰色で、深みのある赤毛が頬まで覆い
表情は読みとることができない

だが、少女をみた街の者は
その気品あるオーラに振り返る者も少なくはない。

“レガーロ美女”と呼ばれる器に
相応しいとされる少女だろう。

その少女は
不意に後ろを振り返る

というより、手首を掴まれ
振り返ることを余儀なくされたのだ



「おい、この姉ちゃん、上玉じゃねぇの

「俺らと遊ぼうよ、」

「楽しめるところ、行こうな」



街を歩いていると、いくつもの視線を感じる。
でも、そんなものもろともしない少女

そしてレガーロ男数人に、ついにその少女は囲まれる



『…』



普通なら。

ここですぐにでも行動に移すのだろう。

だが少女は焦る様子もない
何もしない

助けを呼ぶどころか
逃げようともしない

その少女の様子に
遠目でみていた周りの野次馬も、戸惑いを隠せなかった



「おい、アレァやばいんじゃねえか」

「あの嬢ちゃん、連れてかれちまうぞ」

「ファミリーはどうした?いねーのか」



周りがざわついたことに
レガーロ男たちは焦る


少女をいま拘束しているレガーロ男は
いま、巷で“ある意味”有名な人間

ファミリーはいわば自警団

そんな“一家”に追われるこの男たちは
つまりは“罪人”なのだ。



「やべぇぞ、いま向こうの通りで物取りが」

「早くしねぇと、ファミリーに見つかっちまう」



ひとりが焦り
するとまたひとりが慌てる

そんな様子を
少女はただ黙って見ていた



「ちっ……おい女!さっさと歩け!」


「おい、あの子まじで連れてかれちまう」

「ファミリーはまだか!」

「あいつら今それどころじゃねぇだろう」




腕を引っ張られ
男たちに、少女は黙ってついて歩いている

………ように見えた。




『ねぇ、お兄さん達さ』

「あ?」



少女の澄んだ声が
響いた

周りのざわめきなんて屁でもない
鈴の音のようなその声は

レガーロの民達を聞き入らせた。



『どうして、そんなに急いでるの?』



自分を連れ去ろうとしている男たちに
こんな野暮なことを聞く少女が

何処にいようか。



「あぁ?」

「なんだ女!」

「そんなのなぁ…!」



いくら“誘拐犯”とは言え
“仕事”を舐められては溜まらないらしい

“誘拐犯”とはいえ。

レガーロ男は顔を真っ赤にし
少女に詰め寄った

少女の口端が
弧を描き上がったことに、誰も気づかない



「お前、人攫いがこんな騒ぎ立ててしまって!“ファミリー”に気づかれるリスクが高いからに決まってるだろ!」

「…………」

「…………兄貴、」

『ふーん、私、攫われちゃうんだ』



その声に
時が止まったかのように

一瞬にして
周りのざわめきが

止んだ



『嫌よ。私まだ、観光が済んでないもの』

「な、に…」

「舐めた真似して…!」

「女のくせに……!」



男たちが少女に飛びかかる

だが少女は
あくまでも冷静さを失いはしなかった

男の目を
ジッと見つめ…



「!うわっ………」

「はっ………わ、止め…ろ、」

「く、来るなっ……くる、な」

『女だから、なぁに?』



少女の目をみた途端に
レガーロ男たちは、怯えだした

頭を隠すものもいる

そして四人ともが
“悪かった”と、何かに謝罪を述べているのだ



「ファミリーがきちまうもなにも、お前……ファミリーの人間かよ…」

「…ったく、ツイてねぇ」



レガーロ男が、少女にむけて
自分たちを嘲笑うかのように、そう言った。

少女は、そんな彼らのそばまで歩き
こいつらの中では兄貴分なのだろう男の隣にしゃがみこんだ。



『何?ファミリーって、美味しいものかしら』



男の耳を掴んで、口元をそこによせた。



『私はファミリーの人間ではないわ』

「……け、ど…アンタ…………その力は…、
ファミリーの連中と、似たようなもんなんだろ…?」



男が、首をあげて
少女を見上げた

その目は、怯えている

さっきまでの威勢なんてどこにも…
姿、形すらなかった



『ファミリーなんて集団、知らない』

「………」

『それに、言ったでしょ?私、まだ観光がすんでないの』



少女は立ち上がるため、自分の膝に置いていた

レガーロ男の頭を地面に下ろす。



『それよりおにーさん達、次は人を選んだ方がいいよ』



数本ほど歩いてから、少女はレガーロ男たちを振り返った

艶のある赤い髪を、己の耳にかける



『……綺麗な薔薇には、棘があるってね』



自分の右耳に手を忍ばせて

異国の、
レガーロではジャッポネと呼ばれる場所の

言葉を口にした。








『……………』
 



《…………!》

《…》

《アルカ……逃げ…ん、だ………》




断片的な記憶しかない。
年を重ねるごとに蘇ることもなく

ただ解ることは
その記憶の中の少女は自分だということと

共にいた記憶の中の子供達と
“約束”を交わしたということ



『絶対……取り戻すんだ』







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