Contacter
陽がちょうど空から沈み始めた頃、とある団体が揉めていた──というよりも、一人の人間を数人で追い求めていると言った方がよいのかもしれない。
5、6人の黒いマントに身を包んだ者たちが、前方を走る一人小柄な者を追う。
夜も賑わうレガーロの一市場は、そんな彼らの行動を意図も容易くもみ消してしまう。
誰も、その少女に気づかない…
赤い髪を持つ少女、
エルフィアナに。
…──
『……』
入り組んだ路地に入り、隅に身を隠す。
そこから大通りの方に意識を移した。
数人の人間たちが、エルフィアナの潜む路地裏の前を通り過ぎていった。
足音が遠ざかり、やがて人の気配がなくなるのを確認して、彼女は漸く大きく息をつく。
一度深い呼吸をしてしまえば、後からの呼吸も
どんどん大きなものへと変わる。
呼吸に一定のリズムが戻った。
『……』
行った、か。
あの日…、アルカナファミリアの人間の子供に会ったあのあたりから
見覚えのない、黒い何かに跡をつけられることが多くなった。
先日は物理的な攻撃さえも受ける始末。
こうしている間にも
奴らは自分を探していることだろう。
けれど。
今の状態では
移動という手段はあまり良くない。
それに、そのわけの分からない組織のほかに、アルカナファミリアも
明らかな敵意とはいわないがこの数日自分を探している。
どちらに捕まっても、厄介なことにはかわりない。
だが、捕まるとしたら
後者のほうが幾分かはましなのだろう。
苦い笑みを浮かべた。
右耳朶に手で触れる。
赤い光がそこから溢れ、目を閉じた。
この光が教えてくれる。
彼女の未来を、彼女自身に。
どちらにせよ、もう未来は決まっているのだから。
『明日…』
明日、アルカナファミリアと……
―
翌日の晴れた日の朝、アルカナファミリアの屋敷から
三つの人影が出ていく。
聖杯のノヴァ、諜報のリベルタ、それとフェリチータだ。
「まさか、パーパが留守とはなぁ」
「ああ。…とんだ誤算だ。」
三人はとぼとぼと歩いていた。
先日のことで、パーパに話があったのだが、当の本人は屋敷から姿を消していたのだ。
そして、フェリチータの母スミレから、代わりに所用を頼まれる。
「いくら暇になったからってマンマも、用事を頼むことないのに…」
リベルタとノヴァの後ろで、用事を記入しているメモを眺めるフェリチータ。
「まあいい…。はやくその用事とやらを済ませてしまおう」
ノヴァが覗き混むようにメモの中身を確認し、先頭をきるかのように歩き出す。
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