Il temporale era visibile a me.
















「ひやぁー、まいったよ。」








もー無理

疲れた

マーサって鬼だ。







そんなことを愚痴りながらに

ドカッと

ふかふかそうな素材でできたソファーに
パーチェは身体を預けた









「デビトの言うとおりに、あれから雨は酷くなるし、濡れるし…
マーサは鬼だし…
ちょっとした嫌がらせだよもうッ」

「るせー、パーチェ」













リストランテにて、昼食を摂っていたデビトとパーチェ


だが、あんなにも晴れていた空が突如一変し
まるでバケツをひっくり返したかのような大雨になったのだ。


デビトの言葉により
二人が雷雨に遭うことは避けられたのだが…









「わぷッ……ちょ、デビト!急にタオルなんか投げつけないでよ!」

「あァ?……オメーがその濡れたナリさえどうにかしてりゃ
俺までマーサに雑用なンか、頼まれたりはしなかったンだよ…」








デビトがタオルを頭に被りながら、部屋の灯りを点けたのと同時に

彼は、この部屋の先客でもあるパーチェにも
ソレを投げつけた。



部屋を照らす光は、まだ乾ききっていない
二人の髪を引き立たせていた。








「…だって、やろーとしたらマーサが来たんだって」







いくら雷雨を免れたとはいえ
濡れたことには変わりない


…のにもかかわらず
このレガーロ男は、へらへらと
どういうつもりか、濡れたままの格好で館を彷徨いた。

その行為により
メイドのマーサに“掃除をしたばかりなのに”と

戻るなり早々に、小言を散々に浴びせられ

だんだんと冷えていく身体で、雑用を回される羽目に…。



……もちろん、その場にいたデビトも
道連れである。










「…あとで覚えてろよォ、パーチェ」

「はは、怖い怖い」














そうして、手を抜くところは抜きながら
さっさとその雑用とやらを終わらせ

彼らがやってきたのは


棍棒でも金貨でもない
聖杯──ノヴァ──の執務室だった。












「…さて、と。」








パーチェが反動をつけて
起き上がる。

そんな彼の髪からは
まだ、いくつもの雫が滴れている


もちろん、本人はそんなことお構いなしに
ゴロゴロとしていたので、その下のソファーの布地はすでに湿っている。











「…ノヴァちゃんが、いないうちに」

「さっさと片づけるかァ」









デビトは場所を移動し
パーチェの座る向かいのソファーに、足を組んで座る

パーチェはパーチェで、そんな彼にあわせる様に
ちゃんと座り直した。













「それにしても、よく分かったね。デビト」

「…あァ?何が」

「雨が降るって。」








パーチェの質問に、デビトは答えはしなかったが
だいたいの言いたいことは理解する


“まとまった考えは、共通のものなんだ”と。












「…5年前も…、こんな嵐だったからなァ」

「……5年だっけ」

「……5年、ダロ」

「………」

「……」










いま、巷を騒がせていた
連続婦女誘拐事件。

未だに、被害者の女性…犯人すら見つかっていないという
最悪な状況のなか


犯人を捕まえ
あっけなく、終息へと導いた




──赤い髪

──灰色の瞳

──どこからか漂う気品



少女がいる。













犯人は少女により捕縛
被害者の女性も、先日諜報部の活躍により無事保護。


いまごろ、お騒がせの犯人たちは
聖杯により制裁を受けているはずだろう








…とにかく、

彼らアルカナファミリアのトップ
モンドが下した次の司令は

どういうわけか


その少女の保護、次第連行。











あれ以来、姿を眩ませたという
その少女。


もちろん、捜査は難航。


…なのだが、















「5年前も、確か……4人でこう、濡れてたよね」

「…そんな話、持ち出してくるってこたァ…
考えていることは、同じだってことで、いいんだナ?」















デビトの問い掛けに
しばらくの沈黙を保ってから、パーチェが肯定の意をみせた。









「ん。そうだねぇ……」










何か、確信めいたようなデビトの視線に

どこか切なげなパーチェの瞳












彼らは知っていたのだ。


いくつかでてきた少女の特徴
そのすべてに当てはまるオンナを









「バンビーナと取り違えられた赤い髪の、オンナ」

「…うん。………誘拐犯を一人で片した女の子」









少し

ほんの少し、困ったように眉をさげて
寂しそうに笑うパーチェ

その表情が目にはいると
少し、デビトはホッとした。









「けど…もしそれが、本当に」

「、ルカ…」













部屋の扉が開く音を聞くと、黒髪の長身な男が次いで入る
それを確認すると、パーチェは立ち上がった

また背もたれに盛大に凭れていたデビトは
よっ、と身軽にも起き上がる
























「よォ、」






そして、そんな様子を
入ってきて早々に冷めた目で見ているのは、2人の幼なじみ

ルカは2人の方を一度だけ見やった








「……どぉしたールカ、ンな悄げた面してよ」

「………」

「ルカちゃん?」







幼なじみの声には聞く耳を持つ気はないというように
彼は、迷うことなく
一直線に、この部屋の唯一の窓へと足を進める

そして
大きな窓を開け放った







「ッ!………オイ、ルカっ……」

「………」









ルカが開けた窓からは、チャンスだと言わんばかりに
勢いよく吹き込んでくる風


今日の天気は、レガーロ一番の嵐日和

そんなことはレガーロ住民なら、よく解っていることだ
そんな時に窓を開け放つ行為は…








「ルカっ……ここ誰の部屋だと思ってンだ!?」

「…えぇ、知ってますよ。」

「知ってますよ、じゃねぇンだよ!
アイツの部屋は報告書の宝庫たぜ?この後処理どーすんだって聞いてんだ!」

「そうだよ、ノヴァが帰ってきたら俺達切り刻まれちゃうって!」









いきなりのルカの奇抜な行動に
あのパーチェでさえも、口をあんぐりと、開けていた


部屋中を舞う、白い紙

パーチェはそれをパッと掴み取った
雨も降ってきたのかそれは、所々に湿り濡れている






「……」







何を思ったか
次に見た彼は、その白いそれらをせっせと集め始めた









「ヤバいよ、俺絶対ノヴァに半殺しにされるぅ!
溜まってたツケ払わされるぅぅ!だからルカちゃん止めたげてー!!!」

「知るかっ!ツケはテメーで何とかしろゃあ!」

「殺されんのと半殺しっ、どっちが辛いか知ってるぅぅ!?
半殺しに決まってるでしょ!」

「………」







パーチェを無視して、デビトは
窓の桟に手を付いたままのルカを見た。







「オイ、ルカ
どーいうつもりか知らねーが、取りあえず窓を閉めろ」







デビトのそこ言葉に、ルカは従わなかった








「デビト、パーチェ」








そればかりか、この状況のまま
2人へ話しかける始末


パーチェは立ち止まり
デビトは、眉間のシワをさらに濃いものにした









「……私は、その少女をいち早く保護したい」

「ルカ……」










窓の奥の、景色を見据える
自身の敬愛するお嬢様からの贈り物の黒い帽子が、突風に飛ばされても
気に止めた様子はなかった






「いままで…一体、」






デビトの言葉に被せて、煩い音を立てながら吹き込んでくる風に負けじと

ルカが声を張り、そして
やっと自分まで届き、聞こえた言葉はそれだった。








「“エルフィアナ”」

「!」





明らかに、女の名前のその言葉…

ルカがもらすそれには、デビトもパーチェにも聞き覚えがあった。



拳を作り、下を向く彼の代わりに答えたのは

いつの間にか隣に移動したパーチェ











「ルカちゃんはさ、その赤毛の女性がアイツだって言いたいんだよね?」

「……そうです」

「………だから、早く保護を?」








パーチェの問いかけを聞いたデビトは
彼をみたあと、その視線をルカに向けた











「……ええ、パーチェ」







しばらく黙り込んだあと、数歩前のところまで歩いて
黒い帽子を拾い上げたルカ

そして、かぶり
スーツに引っかかっている葉や汚れを払いながらルカは前を見据えた







「お嬢様が見たというその女性は、“エルフィアナ・シビル”だと」



























「俺もそう思った……、そう考えたよ
もちろん、デビトも一緒だ」


「………けど、」











パーチェが一歩踏み出す
無意識に、その手は拳をつくっていた

だけれど、パーチェよりも先に感情を露にした人物がいた。








「ンなことあり得ねぇダロ!」

「……デビト、落ち着いてください」








あくまでも、冷静にルカが告げる
だがデビトは、さらに興奮するばかりだ








「今日みたいなあの嵐の日……!」



















だが
そこまで言えば、彼の体がふわりと浮いた

衝撃と心音と激痛が彼を襲った








「………!」

「黙って、それ以上言うんなら…」










彼が薄目をあけると、そこにいたのは
紛れもなく己の幼なじみ

自分より背丈の高い彼は自分の体を蹴倒し
眼帯の倒れた自分を見下ろしている。

胸ぐらを掴む二本の手の持ち主だ


















「……ふぅ…はいはい、デビトちゃん」







向き合っていた顔を背けて、両手をあげたのはデビト









「……………」















面食らったようなデビトの顔を目に留めると
だいぶ緩くなった胸元の彼の手首を掴み、どけた

そして、隣にはもう一人の幼なじみの姿が









「……ありがとルカちゃん」

「いえいえ」








彼の差し出す手を掴み
起き上がった








「わりぃ…」

「あ、いーよ
デビトの気持ちが分からないんじゃないしね。俺もおんなじ」








シャツのボタンは、何個かが可哀想な運命を辿ったようだ








「……あり得ねぇかもしれねぇ…けど」

「………」








何かを考えこむように
手元を顎に添えるデビト







「……知らされていないだけ、だとすれば…どうだ?」

「………どういう意味で?」







いまいち、わからないといった表情で
彼を見つめ返すパーチェ








「その赤い髪の持ち主があいつであったとして、…問題なのは、どうして今頃なんだってことだ。」






デビトの言葉は力強いものだったが、焦っている風でもあった。


…たしかに、五年ほどだった。
なのに、自分たちは─────








「…それに俺らは、…いままでパーパから、5年前のアイツについて、何も聞かされていない」

「…ただの事件解決の協力者に対して、パーパがあれほどの執着心を見せるはずが無い。」







ルカの口から漏れた、トップを表す言葉
パーチェは苦い顔を浮かべる







「狙ったようなこの連続事件…。必ず何か裏がある。」




























「あのさ、」








部屋から出ようとする二人の背中に
パーチェは言葉を投げかける。






「……いまさらだけど、どうして彼女はさ____」







パーチェの質問にデビトとルカは顔を見合わせた。








「なに言ってるんです?パーチェ、彼女は…」







そこまで言いかけて、ルカの顔から表情が無くなった。






「ルカ…?」

「ルカちゃん?」






急に黙り込んだルカに
2人は首をかしげる。

だがルカは違った…

いままで思わなかったことが、一気に弾ける。



2人を前に、ルカの頭はフルで働いている。


自分たちが思い描いている彼女は
どうして自分たちの前から姿を消した?

こんなに大事だった彼女が姿を消したというのに。

どうしていままで。










「この5年、疑問に思うことが無かったことが、今になって急に______、」

「……」






疑問に思わなかったのだろうか。







「!」







パーチェに、ルカの心情が手に取るようにわかる。
それほどに、パーチェの言葉に信憑性があったのだ。

ルカがパーチェを見、デビトを見た。






「おかしいよ…」

「……_____オイ、まさか俺達、」

















    どうして、レガーロから去ったんだっけ。











「パーパ……。」














prev - next

back



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -