Intenzione









「来ねぇー」

「…と、お嬢様の言うとおり、取りあえず幹部の人には声をかけましたが 」






まぁ、こうなるのは分かってはいましたけど…

ルカの顔がそう言っているのは、明らかだった







「ダンテと船…がぁっ」

「デビトとパーチェがいないが、この際仕方がない。フェル、話せ」







ギャーギャー騒ぐリベルタそっちのけで
ノヴァか、ルカの言葉に付け加えるように フェリチータに促した。







「う、うん!…あのね「なァんだ…」

「ラッザーニア」








フェルの声を遮るかのように突然開いた会議室の扉が
そして、この空気に似合わない
気怠そうな声がこの場にいる人間の耳に届く

もう一人については、問題外だ。







「デビト、パーチェ!いったいどこへ…」

「心外だなァ」

「そうだよルカちゃん。俺たちずっとお嬢のこと探してたんだ」

「…!ごめんね、デビト、パーチェ」







幼なじみ三人の耳に入る少女の声
それを聞いて、真っ先に動いたのはルカ…







「まったくだァ、バンビーナ」







ではなくデビト。


彼はそのまま、フェルが座るソファーの後ろに回り込んで
己の腰に手をあて、もう片方で彼女の艶のある赤毛に触れる







「珍しいお前からの誘いだっつぅのに、まさかの会議召集かァ?」

「つべこべ言わす!二人は早く座ってください…」

「ふたりが来ないと、フェルが話を始められない」

「だいたいデビトは、お嬢にすぐ触りすぎだ!」

「あァ?なんだァ、リベルタ。悔しいならお前も触れ」

「リベルタにしろデビトにしろ、私のお嬢様に気安くさわらないで下さい!」

「ルカちゃん、お嬢ルカちゃんのじゃないから」






ルカの非難の声に
パーチェとノヴァが呆れ顔を彼に向ける

フェルがクスリと、笑みを零した。













「…取りあえず、お嬢が怪我なくてよかったよ」

「ありがとうパーチェ」






パーチェの柔らかい笑みに
フェリチータもつられて笑みを零した。






「で、事件はバンビーナのお陰で解決したンだ。なら、
…この召集はいったい、どういう要件だ?」







急に真剣な顔付きになったデビトは
己の指を、先ほどまで触れていたフェリチータの髪から
パッとはなす

その動作に、名残惜しさの欠片もなかった


パーチェも、リベルタの首に巻きつけていた己の腕を素早く動かし
リベルタの隣の席へと腰を下ろした






「ルカ達には言ったんだけどね。
あの誘拐犯、私が一人で捕まえたわけじゃないの」






フェリチータが話を再開する
すかさず反応したのはリベルタだ






「さっき聞いたときもそうだったけどさお嬢。
一人じゃないってことは、
誰かと協力してやったってことでいいんだよな」





リベルタの問いは単純だが、尤もだろう。

そして、もしそうであったとして
どうしてフェリチータがそこまで気にするのかが
彼らには解らない






「フェル。報告では、屋敷には確かダンテと戻って来たらしいな。
その協力者はダンテか?」







ノヴァが付け加える
だが、フェリチータは首を振った






「ルカに頼まれて、リストランテ街で買い物をしてた」






そのことは、この場にいる人物たちは
皆周知の事実

ソレを知っていて、この部屋の人間は一斉に該当する青年を見た。

シュンとする彼に気づかないまま
フェリチータは話を続行させる













「でね、ルカの買い物を済ませたあとにレガーロの店主に声をかけられて
“ 嬢ちゃんと同じ年頃の女の子が、いま、まさに、攫われそうなんだ! ”」

「それで、お嬢様は如何に…」





それを聞いてルカは瞬時に顔色が変わった
大方、その店主に現場へと連れて行かれ
その人攫いからその“女の子”を守ろうとした
心優しいじゃじゃ馬なお嬢様の身を安じたのだ







「その子、腕を掴まれたのに…全然抵抗しようとしなくて」

「…そうか。」

「私もファミリーだし。だから、助けようとしたんだけど」







…そうだ
フェリチータは、彼女を助けようとした

あの大人数で、女一人に寄ってたかって
悔しくて…


だが、いくら大アルカナを持つ彼女でも、一人にあの人数…
明らかに、こちらが劣勢につくことは見て取れていたというのに。



なのに、その女は
一人で

気づく間もなく、終わらせてしまった









“ あの子、連れて行かれてしまう ”



そんなもの
彼女には必要なかった







「別件でダンテが近くを見回ってたみたいで」






“そっちに気を取られて… 気がついたらね。
人攫いは地面でのびてて、女の子は…そこにもう、いなかったの”






「だから、今回は私全く活躍できてないんだ」







彼女らしくない
へらり、とした笑みに

ファミリーの面子は どう接して良いのかわからず
戸惑いを見せる












…しんとした空気に耐えられなくなっただけなのかもしれないが

その沈黙を破るはリベルタ






「そりゃ、間接的だったかもしれないけど、結果的にはお嬢の手柄だろ?お嬢」

「…そうだな」






彼の言葉に、今度はノヴァが続ける






「お前の話では、少なからず残党もいるということだ。……だから、次が無いことはない」







なんとも遠回しではあるが
これも彼なりの気持ちなのだと

いまでは、彼女にもわかる。

恋人たちを使わなくても…








「どっちだろうと、お嬢はお嬢!
その姉ちゃん助けようとしたのは変わりねぇわんだし!」

「僕達が聞いていた“人攫いを抑えた赤い髪の女性”とやらも
どうやらお前のことではないようだしな」

「まァ、レガーロにそういうタイプの女がいても、悪くはねェナ」







デビトが拳銃を構えて
その銃口をパーチェへと向ける








「え、何デビトちゃんコレ」

「ラザニアの食べすぎで頭ぶっ飛んだかァ?…銃口だロ」






指をかけて、デビトの拳銃の銃口は
パーチェの額とぶつかる






「いや、銃口だけどっ、銃口だから可笑しいでしょー!」

「うっせぇゾ。バンビーナの話で思い出したお前が相当溜め込んだ、リストランテのツケ、しかも全部ラザニアたァ…いまから払いに行くぜパーチェ?」





デビトがパーチェの耳を掴んで
無理やり彼を立たせた






「いて、いててデビトちゃん痛い!お嬢の話しだよ、ほら最後まで聞かないとねっ」

「ううん、私の話は以上だよパーチェ」






パーチェの方を一度みて

フェリチータは
ルカの入れたリモーネティを口にする







「…その思わず見とれちゃう程きゅーとな笑顔、でもいまされてもゼンッゼン嬉しくないよお嬢っ」

「ハイ、けってぇーい立て 歩け そして受け止めて全て払えパーチェ...巡回中にオレが払わされンのはゴメンだ」












少しだけ静かになった会議室

そして次に
息を吐いたのはノヴァが最初だった












「いくらか聖杯にも回そう、その女の特徴は?」






至って穏やかなノヴァの声音とは正反対に
彼の言葉に

フェリチータは身をかたくした







「……特徴って…どういう特徴?」

「…特にはない、何でもいいが……どうした?」







ノヴァがどうして特徴を聞くのか

もちもん、また彼女が巻き込まれる場合を想定しての対処のためだろう

だがそれは、後に面倒になった場合のことを考えて
それに当てはまる者を手中に納めておくためでもある


それに、その特徴とやらで
彼女の人攫いを追い込ませた能力について 彼らに知られたのなら…

確実に、ファミリーは
あの子を

捕縛する。















「何でもないよ、ノヴァ。」







いまでも
忘れはしない


自分のよりも深く赤い髪は、彼女の強さを表しているようだった

綺麗な灰色の瞳は、総てを見通しているように光を宿していた


そして、
その赤い髪を耳にかける彼女の右耳にある刻印は 確かに

緋い 緋い
鎖とも呼べる“スティグマータ”だった
























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