きすまーく




「なぁ、俺もそれ、やりたい」



薄暗い寝室。
触れ合う素肌。
上がる吐息。

キスから始まり、身に纏っている衣類を脱がせ合って。
柔らかい唇にキスを落とす。
ちゅ、とリップ音を鳴らして離せば、静雄の頬は赤く染まっていた。
それに気を良くして、そのままぐいと押し倒す。
慣れたように後ろへ倒れた静雄に臨也は跨り、胸を弄った。
ぷくりと立ち上がっている乳首を撫でて、屈んだ臨也は鎖骨に唇を寄せる。
舌と唇を使ってぢゅう、と吸い付けば、そこには赤い華。
鎖骨下の柔らかい皮膚のそこに咲くそれを、満足気に眺めた臨也に、冒頭の台詞を静雄が言ってのけたのだった。


「それ、って何?」
「これ。赤いやつ」
「あ、あぁ、キスマークね。びっくりしたよ。俺はシズちゃんがタチをやりたいのかと…」
「なぁ、これのやり方教えろ」
「無視かい。…やり方って言っても、ねぇ。吸い付くってしか、言いようが…」
「じゃあ、お前で練習させろ」
「はっ?!」
「キスマークは恋人にするもんだろ?だったらお前を練習台にすればいいし。いいだろ?」


キスマークって許可取って練習するもんじゃないだろ、とか、練習台ってなに、とか、色々言いたい事はあるが、静雄の期待に満ちた目を見たら、何も言えなくなってしまった。
なにより、恋人にキスマークを付けられるのも、悪い気はしない。
仕事が仕事なので、目立つところに付けられるのは困るが、練習に良さそうな二の腕も臨也は露出しないタイプである。
あとは腹などにやらせれば問題ないだろう。
はぁ、と溜め息を吐き、「分かったよ」と承諾をする。
それにパッと明るい顔をした静雄は、まずどうすればいいんだ、と臨也に顔を向けた。
全部説明してやらなければいけないのか、と気の遠くなる気分だ。


「練習するところは、俺の二の腕ね。ってか自分の二の腕にやってくれてもいいんだけど。俺を練習台にしたんでしょう?」
「二の腕なのか?」
「皮膚が薄いからね。やりやすいんだよ。キスする感覚で、唇寄せて、それから吸って。はい、どうぞ」
「…ん」


二の腕を差し出せば、恐る恐るそれに手を伸ばす静雄。
両手で腕を持って、柔らかい二の腕に裏に唇を寄せた。
薄く唇を開けて、ちゅ、と吸い付く。
ぱっと唇を離すと、そこにはうっすらと赤い痕があった。
それを見て、静雄は首を傾げる。
なんか違う。


「なんか、薄い」
「吸い付く時間が短いんだよ。柔らかい箇所なら吸引力はいらないけど、今のシズちゃんみたいに一瞬じゃ、そんなに赤くならないよ」
「じゃあ、もうちょっと長くする」


先程赤く付けた横。
そこに再度唇を寄せて、皮膚を吸う。
さっきよりも長い時間ちゅう、と吸い付いてから、ぷちゅりと水音を鳴らしながら唇を離す。
隣の薄い痕よりも、赤いそれ。
それでも静雄は首を傾げる。
やっぱり違う。


「なんか、お前がやるやつより、デカい」
「吸い付く範囲が広いんだよ。口は薄く開けて。はい、口当てて」
「ん…」
「舌の先使って、範囲を狭くして」
「ん、んん?」
「前歯の裏と、舌の間にある皮膚を吸って」
「んっ…」
「あ、歯は立てちゃだめだからね」


ぎこちない動きで、臨也の言葉通り動く静雄。
よく分からないのか、上目で臨也を見る目が色っぽい。
それにごくり、と喉を動かす臨也に、静雄は気付かない。
先程言われた通り、一瞬ではなく少しの時間を置いて唇を離した静雄は、自分が吸い付いたそこと、臨也に吸い付かれたそこを見比べる。
自分の満足する出来だったのだろう。
嬉しそうに、よし、と呟いた。


「出来た?」
「できた。次は腹にやりたい」
「まだやるの?…もー、好きにすれば?」
「おう、好きにする」
「ただし、俺はお前と違って、普通の人間なんだ。そんなに早く消えないんだから、自重してよね」
「分かった。ってか、腹なら別によくねぇ?」
「は?」
「別に、誰かに見せる予定とか、ないだろ?」


臨也の脇腹に顔を寄せた静雄の言葉に、一瞬言葉を失う。
何て事を言ってくれるんだ、と文句を言おうとしたが、せっかく腹部に集中しているのだ。
赤い顔を見られたくなくて、そのまま押し黙った。

ペロリ、と脇腹を舐める。
くすぐったいのだろう、ピクリと黒い髪の毛が揺れた。
それを視界の端に入れて、二の腕にやったように、薄く口を開け、範囲を狭くして吸い付く。
同じ感覚で吸い付いたというのに、今度はまた薄い色しかつかなかった。
何故だ、と視線で訴えかけると、呆れたような溜息と顔。
それにむっとしつつも、静雄は文句を言わない。


「そこは二の腕より皮膚が薄くないんだよ。まったく同じようにやったら、そりゃそうなるよ」
「そうなのか」
「さっきより強く吸い付いてごらん?ちゃんと付くから」
「わかった」
「おやおや、なんだか今日は、いつもより素直だねぇ」


こくんと頷いて、再び屈んだ静雄の頭を撫でてやる。
それに目を細めた静雄は、どこか嬉しそうだ。
そんな表情のまま、今度は強く、その皮膚を吸う。
その吸い付きに、ぴりっと少しの痛みが走り、反射的に臨也の体が跳ねる。
それを快感から来るものだと受け取った静雄は、そのまま次のキスマークを付ける作業へと移る。
ちゅ、ちゅ、と繰り返される音と、それを愛おしげに眺める静雄に、臨也は正直限界だった。
普段はあまり、静雄からは触れてこない。
それが今日は、こんなにも積極的だ。
それに発情しない方が、どうかしている。


「シズちゃん、まだやるの?まだ満足しない?」
「ん、……じゃあ、もう、いい」
「そう。じゃあ、今度は俺がする番ね。はい、ごろんして」
「うっわ、何だよ」
「シズちゃんは上半身にキスマークをくれたからね。俺は下半身にキスマークを沢山付けてあげるよ」


にっこり笑ってやると、ぶるり静雄が震えた。
感情を殺して笑顔を作ったつもりだが、静雄には相変わらず通用しない。
欲望に塗れた瞳を、見抜かれたようだ。
それでも静雄は抵抗しない。
先程臨也に触れて、彼自身も興奮していたようで、この先を期待している。
濡れた瞳で、獣の様なそれを、じっと見つめ返した。
それに今度は臨也がぶるりと震えた。
目の前の男を支配したような、おかしな錯覚に、ぞくぞくする。
ずくりと下半身が熱を持って、暴れたいと訴えかけるのを押さえつけ、ぐい、と白い足を持ち上げた。
上げられた右足の、太腿の内側。
二の腕と同じく、柔らかい皮膚のそこに、唇を寄せる。
ちゅう、と吸って、べろりと舐めて。
唇を離さないまま、それを繰り返し、上へ、上へと攻めてゆく。
敏感に反応する静雄は、その性的動きに跳ね、声を出さないように震える唇を噛み締めていた。


「はっ、あ…」
「シズちゃんってさぁ、痛みには鈍感なのに、こういうのには敏感だよね」
「あっ、そこでしゃべんなっ、息がっ」
「はは、期待してんの?穴がひくひくしてるね」
「ひっぅ…」


ぺちゃり、割れ目に沿って舌を這わせ、穴にたどり着くと、そこを吸った。
ちゅうぅ、と吸い付くが、流石にそこには内出血の赤は出来上がらなかった。
ふむ、と一息ついて、今度はその少し横の皮膚に吸い付く。
器用な舌先を使って、口の中を真空にし、きゅうと吸い付くと、そこには赤いマーク。
にんまり笑って眺めてから、そこにキスをした。
白い尻がぴくぴく動いて可愛い。


「お尻にキスマークって、普通に出来るもんなんだね」
「そ、そんなとこに付けるな馬鹿!」
「別に良いじゃない。シズちゃんもこんな所、誰かに見せる予定ないだろ?」
「ない、けど」
「じゃあ問題ないよね。さて。ここ、ひくひくしてるけど、どうしてほしい?触ってほしい?」
「んんっ、あ…」


まだ固く閉ざしているそこを、人差し指でこつこつと突く。
ノックするように叩いても、まだ臨也の指を招き入れようとはしない。
むしろ抵抗するようにきゅう、と開閉を繰り返す。
そこに枕元のローションを垂らして、ぬるぬると塗りこんでやれば、静雄はくぐもった声を発した。
ぐちゅぐちゅと塗りこみながら、第一関節までを浅く抜き差しする。
入り口のみの愛撫に、もぞもぞと動く様は、なんだか滑稽だった。


「はは、前、びんびんになっちゃったね」
「はっ、あぁ…」
「Sな人は敏感って、本当なのかもねー」
「あっ!も、焦らすな、ノミ蟲ぃ!」
「あらあら、我慢できないの?」
「は、早く指入れろ、このボケ!」
「…ずいぶん男前な誘い方だこと」
「ひっ、あぁ!一気、とか…んぁ」
「可愛いシズちゃんが悪いよね。俺、早く入れたいもん」


先程の焦らすような愛撫とは対照的に、ローションを足したそこへと、一気に指を二本埋め込む。
中の肉が抵抗を見せるが、それでもぐいぐい進めて行けば、臨也の細い指は根元まで入ってしまった。
その指を深くまで入れ込んだまま、ぐりぐりと中を彷徨わせる。
舌と同じように、指先も器用な臨也は、指の腹で内面を撫でて愛撫した。
早く入れたい、と言ったわりに、それはゆっくりとした動きだ。
いつもは触れてくる前立腺に、なかなか指を這わせない臨也に、イライラが募る。
いっそ殴ってやろうか、と体を動かすと、中で這いずりまわっていた動きとタイミングが合い、前立腺を刺激される。
待ちわびたびりりとした感覚に、顔を歪ませ、大きな声を漏らしてしまう。
それを隠そうとも、抑えようともせず、自らゆるゆると腰を動かす静雄の姿に、臨也は再び喉を鳴らした。


「どうしたの、シズちゃん。今日はやたら動くね」
「うっせ。もういいから、早くこいよ」
「…ねぇ、君いつからビッチ設定になったの?」
「びっち?」
「あぁ、もう、いいよ。入れればいいんでしょ?入れれば」
「何でそんな投げやり…、っ!だっ、いきなりは…ひぃっ」
「んっ、ちょっと、慣らし足りなかった、かな?きっつ…」
「あぁ、いざっ、ふぅ…」
「はぁ…シズちゃんの中…あっつい」
「ゃ、やっ、そこ…吸う、なぁ!」


ぐいぐい腰を進めながら、身を屈める。
その際奥まで入り込んで静雄が鳴いたが、それを気にせず、胸の突起を目指す。
外気に触れたのと、快感に包まれているからだろう。
最初に少し触れただけのそこは、綺麗に色付き、ぷくりと上を向いていた。
それに舌なめずりをして、ぱくんと銜え込むと、生温かい感覚に、静雄の体が跳ねる。
そのままちゅうぅ、と吸い付き、更に引っ張り上げる。
痛いほどの吸引にも、敏感な静雄は反応して声を上げ、喜んでいるようだ。
飽きもせずちゅうちゅう吸い込んで、器用に舌先でくりくり舐め回してやれば、面白いくらいに足が跳ねた。
そんな事をしつつも、腰の動きを止めない臨也は、どこまでも器用である。


「ひっ、ひぁ…、あぅ」
「んん…、あ、乳首、キスマークみたいに赤くなっちゃった」
「そ、れは元から…」
「ふはっ!そうだね、シズちゃんの乳首は、元々綺麗な色だった、ねっ」
「あっ、あっ、んぁ…」
「あっ、ちょっと…っく、そんな締めないで、よっ」
「わざと、だ、ばぁか」
「生意気」
「んゃ、ああぁっ!ぁ、んっ」
「あん、って、可愛いね」
「そ、そんなの言ってねぇ!あっ馬鹿っ、うぅ…」


ごりごり中を抉って、しこりを押す。
先端で押したまま腰を回せば、堪らないと言わんばかりに静雄は熱い息を吐いた。
良い反応をする中は、ぎゅうぎゅうしがみ付いて臨也を刺激する。
熱い壁と、強い締め付けに、頭の中が、とろけてしまいそうだった。
そんな脳内はすべて静雄で埋め尽くされて、それ以外は考えられない。
次はどうやって辱めてやろうか。
次はどんな新しい快感を刷り込んでやろうか。
そんな事まで考える始末。
臨也は快感に流されて、とろとろになった静雄の顔と声が、大好きだ。


「シズちゃん、イきそ?」
「う、あ、あぁ、イ…きそっ」
「ん、俺も…」
「あ!まっ、あぁっ…前っ、触って、イけなっ」
「トコロテンは…さすがにまだ無理か。しょうがないね。今度じっくり開発するとしよう」
「ああああっ、やだっ、そこはっ、ぅあ」
「触って、って言ったのはシズちゃん、でしょう?」


ぐり、と指先を先端に食い込ませると、カウパーがぶわりと広がった。
無遠慮にかりかりと引っ掻けば、中も蠢いて、臨也は息を詰め、声を漏らした。
はぁはぁと荒い息と、ぐちゅぐちゅと生々しい音。
それから肌のぶつかり合う音に、布の擦れる音。
聴覚からの快感に、二人は限界だった。
臨也は自分の絶頂に合わせて静雄の先端を刺激し、ほぼ同時に精液を放つ。
あ、あ、と短く声を発する静雄と、激しい動きの後で息の荒い臨也は、余韻を楽しみつつ、腰をすり寄せ合う。
ぴくんと動く、お互いの腰がなんだか愛おしい。




「いざや」
「ん?なに…ちょ、なっ、なに?!」
「きすまーく」


いまだにとろけたような声で呼ばれたと思ったら、頬に寄せられた唇。
ちゅうう、と内出血を促す作業をした静雄を見れば、これまたとろんとした目でこちらを見ていた。


「何でこんなところにキスマーク付けるのさ!」
「だって、門田と一緒にいる狩沢って女が言ってたぞ。見えるところにキスマーク付けてあげれば、イザイザも喜ぶよー、って。てかお前イザイザって呼ばれてんだな。可愛いじゃねぇか」
「ほっとけ。てかね、あの女の言う事は真に受けなくていいから。アイツ同人誌の読みすぎだから」
「どーじん?」
「社会人は見えるところにキスマーク付けちゃダメ!評判下がるよ!てか見えるところって…見えるにも程があるだろ!普通は首とか耳の裏!顔にはキスマークなんて付けないの!」
「…そうなのか。すまんかった」


めっ、と静雄を叱りつけると、あっさり謝罪してきた。
それに驚きつつも、頬なんて隠しようもない箇所に付けられた赤に、溜め息が漏れる。
「大丈夫か」なんて能天気な問いをしてくる静雄は、どこまでも無知で純粋だ。
無知でもこんな所にキスマークを付けようだなんて、普通は思わないだろ、とは心の中だけで。
仕返しと言わんばかりに、首筋へとキスマークを付けてやった。
軽くしか吸い付かなかったので、静雄の体なら明日には消えているだろう。


「練習の前にも言ったけどさ、俺はシズちゃんと違って、痕とか消えにくいんだからね」
「あぁ、そっか」
「俺だって仕事あるんだし、目立つのは困る」
「分かった、気を付ける」


気を付けるからまたキスマークやらせろ、と言った静雄は、本当に反省しているのだろうか。
疑問を抱きつつも、臨也は白い頬に、フレンチキスを送った。







「あら、どうしたの?その顔」
「あぁ、この絆創膏?昨日シズちゃんにやられちゃってね。困ったもんだよ」
「絆創膏もそうだけど、その緩んだ顔よ」
「…緩んでる?」
「えぇ、とても。気持ち悪いわ」
「はは、気持ち悪いだなんて、眉目秀麗に向って酷いなぁ」
「気持ち悪い」
「昨日のシズちゃんが可愛かったからさぁ。しょうがないよ」
「今日は取引先の人と会うんでしょう?戻しときなさいよ」
「分かってる」


愛おしげに絆創膏をなぞる姿を、波江は冷めた目で眺めていた。



―――

エロくない…だと…?
エロの投票コメントには特に希望がなかったので、二位の甘を取り入れてみました。そしたらこの様だよ!あれ、メインはR18…。
感謝の気持ちは沢山詰まってるので、許してください。
とりあえず言葉のまま顔にキスマーク付けちゃうシズちゃんを叱る臨也な二人が可愛いな、ってだけです。以上。

アンケートご協力、5000hit、ありがとうございました!








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -