メイドと執事



ガヤガヤと賑わう学校全体。
外部からも来るたくさんの人。
飾り付けられた校門、校内。
浮かれた人々。

今日は年に一度の、来神学園文化祭初日だ。




「わー、静雄、似合ってるね!」
「お前の方が様になってんじゃねぇの?」


そんな浮かれている内の二人、岸谷新羅と平和島静雄は、指定された服を着て、お互い全身を眺めるように見ていた。
清潔感のある白いシャツに、黒いベストと細身の黒いズボン。
羽織っている燕尾服とネクタイも黒く、全身がほぼ黒である。
手には白い手袋をしており、その手に銀のトレンチを持っていた。
そう、二人の格好は、所謂執事だ。


「やー、英国の服装だからかな?金髪の静雄に似合っているね」
「お前は黒髪にメガネだから、すっげー真面目そうな執事に見える」
「むっ、僕は真面目だよ!」
「はいはい、そうだな」


軽く流した静雄の態度を、たいして気にしていない新羅は、そのまま一緒に写真撮ろうよ、と静雄の隣に並んで、近くにいたクラスメイトに声を掛ける。
それに否定の声を掛けようとしたが、「セルティに見せるんだ、楽しみにしていたよ」と言われれば、諦めてレンズに目を向けるしかなかった。
デジタルカメラで何枚か撮った写真を確認していると、別室で着替えていた女子が教室に戻ってきたようで、室内はさらに騒がしくなる。
入ってきた女子も、静雄達と同じく執事の服を身に纏い、髪を清潔感のある髪型に整えている。
元々ボーイッシュなクラスの女子数人は、他の女子に囲まれて「かっこいい」だなんて言われていて、高い声で盛り上がる集団は少しうるさい。
このクラスでは、男女全員が執事の格好で参加する、執事喫茶が企画されていた。


「へ、平和島君」
「あ?何だ」
「あ、あの、写真…撮ってもいいかな?」
「良いよ!僕がカメラマンになってあげる!」
「なんで新羅が答えんだよ」
「静雄も思い出沢山作って、沢山楽しまなきゃ!ねっ?」
「ありがとう!あ、後で一人のも撮らせてね」


割と積極的な女子が俺に声を掛けて写真を撮ると、それをきっかけに沢山の女子から声を掛けられる静雄。
最終的に壁際に追いやられてしまい、言われたポーズをするように言われ、そこは撮影会場になってしまった。
女子生徒に話し掛けられることなど滅多にない静雄は、一気に沢山の人数に話し掛けられ、呆気に取られる。
ぽかんとして、おろおろしている内にくるくる動かされ、レンズを向けられ、怒るタイミングも見失ってしまっていた。


「静雄、モテモテだったね」
「もう既に疲れた…」
「女子の勢いがすごくて、なんだか怖かったよ」
「俺を撮って何が楽しいんだか」


しばらくして満足したのか、ありがとう、と言って離れて行った女子達は、きゃっきゃと撮った物をデジカメで見せ合いっこを始めている。
それを横目に新羅が声を掛けると、静雄は疲れたような声で返してきた。
まだ文化祭は始まってもいないのに、こんな事で大丈夫だろうか、と新羅は苦笑いを漏らした。




そんな準備時間も過ぎ、ついに始まった文化祭。
静雄と新羅のクラスは、始まって早々賑わっていた。
クラスの女子が他校の友達に、先程撮った静雄の写メを横流しして宣伝しただとか、本人に聞かれれば恐ろしい事になるであろう事を言っていたのだが、当の本人は接客に必死だった。
普段人と接することの少ない静雄だ。
話し掛けられても、どう答えていいのか分からないようだ。
それでもそんな事にはお構いなしで、静雄に目を付けた客は喋る、喋る。
「もう無理」
と弱音を吐いて裏に引っ込んだ静雄は泣きそうな顔をしていた。


「お疲れ様、静雄。大人気だねぇ。君の噂が流れて、女性のお客さんが沢山だよ!」
「もうやだ、なんか怖い、あの人たち…!」
「ほら、君イケメンだからさぁ。しょうがないよ。みんな静雄が気になってしょうがないのさ」
「イケメンならクラスにもっといるだろ。何で俺…」


頭を抱える静雄の肩を、ぽん、と叩く新羅。
君はもう少し自信を持って良いんだよ、とは心の中でだけの呟きだ。
そんな疲れ切った静雄と、憐みの目を向けていた新羅に、男子生徒から声を掛けられる。
どうやら入り口で、二人を呼んでいる人物がいるらしい。
嫌な予感しかしなかった静雄だが、のそのそ立ち上がり新羅と共に入口へと向かった。



「やっほーシズちゃんっ」
「よぉ、二人とも」


静雄と新羅を呼び出して手を振っていたのは、二人のメイドさんだった。
ひらひらと手を振る折原臨也と、気まずそうに手を軽く上げる門田京平。
ふわりとした短めのスカートから出ている足は、二人とも細い。
静雄と新羅のクラスが執事喫茶なのに対し、臨也と門田のクラスは、クラス全員参加のメイド喫茶のようだ。
男である二人には丁寧に化粧がしてあり、ウィッグまで被せてある。


「門田!お前意外と似合ってるな!」
「そうだね。門田君可愛いね、予想外だよ」
「な、なんか、女子が張り切っちまってな。念入りに化粧とかされて…」
「似合ってんじゃねぇか。やっぱちょっとごついけど」
「うっ…。静雄に真顔でそんな事言われると反応に困るな…。褒めてんのか、それは」
「え?褒めてるぞ?」
「門田君でも照れるんだねぇ」
「うるせぇぞ、岸谷」


楽しそうに話す執事二人と、メイド一人。
それを面白くなさそうに見つめるメイドが、その隣に一人。
黒く長い髪を高い位置で二つに括り、シュシュでボリュームを出してある付け根が可愛らしい。
こちらのメイドも付け睫毛までして、化粧ばっちりだ。


「ちょっと、シズちゃん。シズちゃんってば!」
「何だよ、うるせぇな」
「彼氏の俺をほったらかして、ドタチンばっかり褒めるってどういう事なの?!ねぇ!俺の方が可愛いでしょ?シーズーちゃーん!」
「ちょ、うるせぇ…!彼氏とか大声で言うなよ!」


ぶんぶん静雄の腕を掴んで振り回す臨也に対し、顔を赤くしながら持っていたトレンチを振り回す静雄。
門田と新羅が暴れそうな静雄を、せっかくなんとか押さえつけているのに、臨也の口は止まらない。
お前空気読めよ!とどちらかが言った言葉も、もはや耳に入っていない。


「ってかシズちゃんは似合いすぎだよね。何それ、ただのイケメンじゃん。ときめいたんだけど!どうしてくれる!俺、ドッキドキしてるよ!」
「あーもー、うるせぇ奴だなぁ!このノミ蟲!」
「酷い!酷いよシズちゃん、褒めてんのに!」
「てめぇのは、見る前から似合う事分かってんだし、別に改めて褒める事ないだろ。門田は似合ってたのが意外だったから、言葉で言ったけど」
「……は?何?」
「だから、お前がそれ似合うってのは、見る前から分かってた、って。中性的な顔してんだし、普通に似合うだろ?お前なら」


しれっと言った静雄に、臨也、新羅、門田が固まる。
しかしそれも一瞬で、新羅は面白い物を見るような顔で静雄を見て、門田は苦笑いで二人を見ている。
対して臨也は、言い表しがたい表情をしていた。
そんな周りの反応に訳が分からず、静雄は「俺、変な事言ったか?」と首を傾げている。


「シズちゃん、自分が何言ってるか分かってないでしょ。そうなんでしょ」
「あぁ?」
「何でもないように嬉しい言葉で褒めるなよ!このイケメン!この場で抱いていい?!てか、抱かせろ今すぐ、そこの使われてない教室でもいいから!」
「なっ、ななななな、何言ってんだこのクソノミ蟲!ああああああ尻を撫でるなセクハラァァぁああ!」
「この服、尻と腰のラインがしっかり出ていて良いねっ」


メイドが執事の腰を抱き寄せ、尻を撫でている。
何とも不思議な光景に、その場に人が集まりだした。
とっくの昔に自分たちの世界に飛び立ってしまった二人は、それに気付いていないようだが、流石に新羅と門田が居た堪れなくなってきた。
しかしその二人を放置しておくわけにもいかず、尚も静雄の尻を揉み続ける臨也を新羅と門田で引きはがし、それぞれの教室に戻る事にした。


「ほら臨也。仕事抜け出して来てんだ。戻るぞ」
「あぁ!シズちゃんの尻!」
「静雄、大丈夫?あーあー、もう、恥ずかしいからって泣きそうな顔しないの」
「ごるらぁぁぁ新羅ぁぁああああ!シズちゃんの頭なでなでしてんじゃねぇぇぇ!っあいた!」
「臨也、うるさい。殴るぞ」
「もう殴ってるよドタチン!最近シズちゃんに似てきたんじゃない?!シズちゃん、終わった後、この服でまた会おうね!約束だからねぇ!」
「うっせぇ!さっさと教室に戻れ臨也ぁぁぁ!」



嵐が去り、深呼吸をして自分を落ち着ける静雄。
それにやれやれ、と呟いた新羅は、静雄の腕を引いて、自分のクラスへと足を踏み入れた。
その教室は、先ほどの賑わいを見せておらず、多くの女性がそわそわと静雄を見ていた。
執事喫茶というカテゴリー故に、女性が多かった教室。
聞き耳を立てていたのだろう、という事が、安易に分かった。
どこか興奮したようにひそひそ話す人たちも数人いる。
つまりはそういう事、なのだろう。
静けさを理解した新羅は、女子って恐ろしい、と心の中で呟く。
静雄が不思議そうに周りを見回したのをきっかけに、また元の賑わいを取り戻したが、そんな中勝ち誇ったような顔をした、女子生徒が一人。
その少女は新羅の元へ寄り、静雄から引き離した。
そのまま教室の端へ連れて行かれる新羅を不思議な目で見ながら、静雄は一人、仕事へと戻っていった。


「ねぇねぇ、さっき教室の前でしていた会話って、本当?」
「えぇ、と…。どれの事かな?」
「平和島君が、受けって事!」
「受け?」
「ネコ、入れられる側なのよね?平和島君が!折原君が攻めなのよね?!」
「あぁ…。まぁ、本人たちから聞くところによると、そうみたいだね」


何やら興奮している女子生徒にも、いつものようににこにこと答える新羅。
周りや本人には聞かれたくないようで、内緒話のように話す少女の口は止まらない。


「なんだ、やっぱり私が正しかったんじゃない!真相を確かめてから決めるべきだったわね」
「あのー…、なんの話?」
「折原君のクラスの文化祭実行委員、私の友達なの。その子と、どうせなら文化祭で受けの方に女装させたいよね、って話になって。でね、私は平和島君受け派なんだけど、その子が折原君受け派でさぁ。どっちが執事喫茶で、どっちがメイド喫茶をやるかで口論になっちゃって。結局じゃんけんで決めちゃったのよね。平和島君にメイドさん着せて化粧してあげたかったのに、出来なくてすっごく悔しかったんだけど!真実がこっち側だったから、もう何でもいいわ。あーあ、アイツあっちのクラスで悔しがってるだろうなぁ。ざまぁ!」


ペラペラ喋る目の前の女子は、非常に楽しそうだ。
そうか、自分たちは二人の女子の趣味に付き合わされたという事か!
と新羅が一人うんうん、と頷いていると、弱々しい声で静雄から名前を呼ばれた。
またお客に絡まれてしまったようで、助けを求めているようだ。


「し、新羅…!助けてくれ!」
「ねぇねぇ、お兄さん名前は何ていうの?」
「アドレス教えてよ。今度遊ぼうよー」
「ってかさ、お兄さん、あの平和島静雄?自販機持ち上げるって本当?かっこいいね!今度見せてよ」
「お姉さんたちとデートしよ?」
「……し、新羅ぁ!は、早く…!」



なんだか変な物に付き合わされての執事喫茶だけれど、なんだかんだ静雄も他人と触れ合えているようだし、自分が楽しいと感じているのだから、それでいいか。
そんな事を考えながら、新羅は静雄の元へと、駆け寄ったのだった。


―――

力尽きた。裏も書きたかったけど、力尽きた。
ってか、こんなギャグ風味になる予定では…!!

取り敢えず、メイド×執事おいしいよね、って言いたかっただけです、えぇ。









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