初めて人を斬ったとき。
勿論それはやむにやまれぬ事情があってのことだったけれども、肉を裂く刃は思いの外重かったが、この程度で人の命は割けるのかと妙なことを感じたのを覚えている。

駆けつけた土方さんは私と、私の下に広がる赤と横たわっているもはや肉の塊となってしまったものを交互にみて私を自分の胸へと押し付けた。

「悪い…」

私は決して自分のしたことが誉められることではないと理解していたけれどまさか謝られるとは思っていなかった。
人を斬って斬って狼と呼ばれている彼に一歩近づけたとある種の誇りを持っていたのかもしれない。

「なんで、土方さんが謝るんですか」

悪いのは私なのに、と続ければ彼はひどく辛そうな顔をする。
なぜそんなに悲しくて辛そうな顔をするのだろう。

「人の血が人を汚す、人を人が喰らう…そんなこと、お前だけにはやらせたくなかったのにな」

(ああ、)
泣いているのだ、彼は。
人を斬ったにも関わらず平然としている私の代わりに心の中で。

「土方さん、」

何だか急に視界がぼやけてきて、今さらになって倒れている人の断末魔がよみがえって、この手で確かに命を奪ったのだと思うと震えがとまらなくなった。
そして同時に彼が戦う理由が少し見えた気がした。
彼は、土方さんは、守るものがあるから戦うのだと。
だから今、私と共に泣いてくれるのだと。

鬼が泣いた日




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