04



彼はほとんど喋らなかった。
話したのは、家はどっちの方にあるのかとか、
ここは右か真っ直ぐかとか、そんなことだけ。

家までは15分ほどで、
長くもなければ短い訳でもない。
でも私にとってはすごく長く感じた。
彼は体格がいい割に歩くのが遅かった。
てっきりスタスタと先に
歩いてしまうかと思っていたから、
正直驚いた。

もしかしたら歩幅を合わせようと
してくれたのかとも思ったが、
そんな気遣いをする理由もなければ
される理由も見つからなかった。

家まで来るつもりなのか、
ある程度近くまで来たらここで良い、
といった方が良いのか。
でも、家まで来なくて良いですなんて言って、
彼に最初からそのつもりがなかったら、
少し嫌味になるかもしれない。

結局、その言葉は外に出ることはなかった。



家の前に着いて、運が悪かった。
お母さんが買い物から帰ってきた頃だった。
あら、あらあら。なんて言いたそうな顔をして、
ニヤける口元を手で隠しながら静かに家に入った。

グリムジョーは、親か?と聞いてきたので、
うん、とだけ返した。
それから、じゃあなと言って別れたきり。

あんな正面堂々と帰ろうと言ってきたのに、
何も話さず、連絡先を聞かれるもなく、
ただ隣を歩いて帰っただけだ。



酷く気疲れをした1日になった。
その夜、お母さんには彼氏ができたのかとか、
どんな人なのかとか、質問攻めを食らった。
そんなことを話す気分ではない。




部屋に戻り、ベッドへと身を沈める。
帰り道、彼の一挙一動が私の心臓を刺激した。

彼が私の家の方向を確かめるために、
交差点で止まって、
行く方向を指し示す手、指先。
こっちか?と聞くその声。

遠くに沈む夕陽の橙に染められ
陰影で際立つ彼の横顔、凛々しさ。

特に印象的だったのは、
真っ直ぐ遠くを見つめるように歩いているのに
時折私の方を一瞥して、
目が合っても何を言う訳でもなく、
また視線を正面に戻すのは、酷く緊張した。

目が合ってすぐそらす訳じゃなく、
ジッと見つめる感じ。
グリムジョーって、瞳もブルーなんだ・とか、
いつもこんな表情なのかな・なんてことを、
気付かされた。




ああ、私どうしよう、これじゃまるで、
彼のことが気になってるみたいじゃないか。
いや、違う、きっと緊張しすぎて、
心臓が少しおかしくなっちゃっただけ。



恋とは心臓がおかしくなることだ
ということを知るには、
まだ私たちは未熟で幼すぎた。
後に、私が恋や愛を学んだ頃、
これを青春と呼ぶのだろう。


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