エース / 一人称 / 500文字
2019/12/22



 そばかす顔の男は、陽だまりのような笑みを浮かべながら、こう言った。
「悪ィな、海軍の嬢ちゃん。ご馳走さん」
 赤いテンガロンハットをのせた頭が、ぺこりとお辞儀をする。この場に似つかわしくない礼儀正しさだ。
 唖然とする私を尻目に、男は雑踏の中へ消えた。私ははっとする。ここで逃すわけにはいかない。
「待ちなさい! ポートガス・D・エース!」
「きみも待ちなさい」
 後を追おうとした私の肩が叩かれる。振り返れば、渋顔をした中年の男。男は私に掌を差し出した。
「お代、まだだよ」
「えっ? 支払ったはずです」
 休憩のために入ったこの店で私は食事をし、支払いまで済ませた。その時偶然、カウンター席でステーキをガツガツ貪るポートガスを見つけたのだ。
「彼を追いかけないと」
「ハンバーガー、ステーキ、タコス。うちの看板メニューなんだがね」
 私は首を傾げた。
「はあ?」
「今の彼が食べたものだ」
「それが何か」
「支払いがね、まだなんだよ」
 ずい、と迫る男の手を見ながら、私はポートガスの言葉を思い出した。「御馳走さん」……。
「あいつ!」
 財布を開きながら私は、このお代は懸賞金に上乗せしてやると、密かに決意した。




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