君は最高難易度のクエスト
昔から、ユウジの特別である自信はあった。
ユウジは誰にでも愛想良くするタイプじゃない。男子だろうと、女子だろうと。
だからユウジに名前で呼ばれ、そばにいることを許されてる私はたとえそれが幼なじみだからだろうと、ユウジの特別だと思っていたのだ。
あの子が、現れるまでは。
「小春ぅー!!!」
今日も今日とてうちのクラスには小春ちゃんに会いに来た幼なじみ───一氏ユウジの姿があった。3年生になって別のクラスになった今、特に用がなくてもその姿を見られるのは嬉しいけれど、それが小春ちゃんのおかげというのがなんとなく悔しい。
「ユウくんチャイムなるで?はよ教室戻り」
「小春〜…最近俺に冷たない?」
そもそも小春ちゃんはれっきとした男の子だし、以前それとなく聞いたところそっちの趣味はないらしい。…少なくとも、ユウジはタイプではない、らしい。
ならば妬くのもおかしな話なのだけれど、かといって笑って見ていられるほど大人な心も持ち合わせていない。相手が男の子だろうと、小春ちゃんだろうと、いやなものはいやなのだ。
「小春ちゃんて、ユウジの特別やんな」
ユウジが自分の教室に戻るのを目で追いながら、斜め前の席に戻ってきた小春ちゃんに話しかける。あら、そうかしら?と首をかしげる小春ちゃんの仕草は、そこらの女の子よりも女の子らしい。
「小春ちゃんにとって、ユウジは特別?」
私の雰囲気がいつもと違うことを察したのか、小春ちゃんはこちらに向き直る。
「ユウくんは大切なダブルスパートナーよ。せやからその意味では間違いなく特別と言えるやろね」
けどな、と続ける小春ちゃんからはいつもの柔らかな笑顔が消えていた。
「それ以上でも、以下でもあらへんで」
「…………」
「応援してる」
ふっ、と緊張を解いたように小春ちゃんはいつものように柔らかく微笑む。
頭が良くて、テニスが上手くて女の子らしくて面白くて優しくて、その上気遣いもできるなんて、全くもって敵わない。せめてもっといやな子だったら、なんて思ったりもしたけれど、そんな子を選ぶユウジはもっと見たくない。
「小春ちゃん」
「ん?」
「……おおきに」
とりあえず、おそらくは最大のライバルにも笑ってお礼を言えるくらいの、余裕と素直さを身につけよう。それから自分を磨くんだ。小春ちゃんにも負けないくらい。
ユウジに、1番やと言わせるくらい。
「やったろーやないの!!」
「はよ座らんかい!」
チャイムが鳴っていることにも気づかず教室でガッツポーズをかましていた私は、次の授業の先生にポカンと1発くらったのだった。