VALENTINE NIGHT
ちら、と時計の針を見上げた。
時刻は2月14日、午後11時55分。
もう少しで、一日が終わる。
そして、バレンタインも……
今頃どうしてるかな、なんて柄にもなく感傷的になりながら、海の向こうにいるあの人を想う。
「会いたいな…」
そう呟いた瞬間、携帯が着信の合図を告げた。
このメロディは、たった一人のためのもの。
「…リョーマ!?」
「うぃっす」
やっぱり、今日がバレンタインだからだろうか。
声を聴けるだけで、こんなに嬉しくなるなんて……
「どうしたの?」
それでも平静を装って尋ねれば、返ってきたのは予想外の言葉。
「…何か、元気ない? ひょっとして落ち込んでる?」
はっとした。
気づいた。気づいてくれた。
心配かけたくなかったのに。
気を遣わせたくなかったのに。
でも、気づいてくれたことが、すごくすごく嬉しくて。
友達が皆、色とりどりの袋を持って想う人のもとへ駆けていく中、私は、直接渡せないという事実を再認識させられた。
会いたい気持ちだけが募って、どうしようもなく切なくなって、涙を必死で堪えてた。
でも今、そんなことどうでもよくなってる。
リョーマの一言で、こんなに心が軽くなるから。
「ううん、大丈夫。リョーマが…電話してくれたから」
私は、心からそう言えた。
「…そっか」
リョーマからの電話なんて珍しいし…心配してかけてくれたのかな?
だとしたら、やっぱりすごく嬉しい。
そんなことを考えていたら、リョーマが言いにくそうに切り出した。
「…今日さ、バレンタインだったよね」
「あ、うん…」
「こっちは昼だけど…日本はもう日付変わるでしょ。だから、その前に言いたくて」
「何を…?」
「あのさ…」
優しく響く電話越しの声。
その後に続く言葉はきっと、明日への力を与えてくれるね。
「Happy valentine and have a sweet dream」