Short Story #novel5_# | ナノ

JEALOUSY CHOCOLATE


夕陽が射し込む放課後の教室。
私は一人壁にもたれて、手に持った箱を眺めた。

「はぁ……」

渡せなかったチョコレート。
たくさんの女の子に囲まれて、綺麗にラッピングされた包みを、一つ一つ丁寧に受け取る彼。
誰にでも平等なその笑顔を見たら、どうしても渡すことが出来なかった。

「どないしたん? ため息なんかついて」

何度目かのため息をついた時、突然声をかけられた。

「し、白石!?」

慌てて箱を背中に隠す。
白石は私の前に立つと、心配そうに眉をひそめた。

「なんか悩みでもあるんか?」

「な、何でもないよ。白石こそどうしたの?」

深く突っ込まれないように慌ててそう尋ねると、白石は悪戯っ子のような顔で笑って答えた。

「俺は忘れもの、取りに来たんや」

「忘れもの?」

「せや」

一つ頷くと、白石は私を指差した。

「自分からのチョコ」

そう言って柔らかく笑う白石。
その笑顔は昼間、女の子達に向けられていたものと同じで、何だか無性にイライラした。

「何で私が白石にあげなきゃいけないわけ?」

感情のまま、思わず飛び出した言葉。

違うのに。
そんなことを言いたいんじゃないのに、一度溢れ出した想いは止まらなかった。

「私は白石のことなんて、何とも思ってないんだから!」

私の言葉に、白石が固まった。

分かってる。
こんなのただの八つ当たりだって。

分かってる。
白石が誰に笑いかけようと、私が怒る筋合いなんてないことくらい。

「…………」

気まずい空気が流れる。

どうしよう、嫌われたかも…
そんな不安が過ぎった時だった。

「…ふっ」

白石が笑った。

「……なに」

その真意が掴めなくて少し乱暴に聞き返せば、白石は一歩距離を縮めた。

「それ、妬いてるん?」

「は? だ、誰がっ……」

「ほな、これは?」

腕を掴まれて、隠していた箱を奪われる。
ラッピングのリボンがふわりと揺れた。

「か、返してよ」

「アカン」

「返してっ」

思い切り箱に手を伸ばすと、そのまま白石に抱きとめられた。

「嫌や。俺は、お前のが欲しいねん」

「……え?」

顔を上げれば、今まで見たことのない表情で、白石が私を見つめていた。

「なぁ。これ、くれへんか?」

耳元で優しく響く甘い声。

ずるい…
そんな言い方されたら、そんな声で言われたら、断れるわけ、ないじゃない…

「…うん」

小さく頷いたその瞬間、一層きつく抱き寄せられた。

「…おおきに」

白石の声が、柔らかく鼓膜を震わせる。

意地っ張りな私は今の気持ちさえ言えないけれど、この想いは、すごく大切なものだから…

チョコレートから、熱から、鼓動から、想いが全部、伝わればいい…




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