Short Story #novel5_# | ナノ

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「うわ、何これ」

放課後、先生に頼まれて足を運んだ生徒会室は、異様な光景を醸しだしていた。

「見て分かんねーのか?」

積み上げられたチョコの山。
その向こうから声がした。

「いや、分かるけど……」

大きく迂回して、声の人物のもとへ向かう。

「今年もすごいね、跡部」

「俺様だからな。当然だろ」

頼まれたプリントを渡しながら、感心半分呆れ半分で声をかけると、跡部は当たり前のようにそう言ってのけた。
けれど、積まれたチョコはよくよく見れば、高級製菓ブランドのものばかり。
そして、間違っても一人で食べきれる量じゃない。

「ねぇ、この大量のチョコってどうしてるの?」

「テニス部の奴らにやってる」

「ええ!?」

「何だよ、文句あんのか?」

「だって…あげた女の子達が可哀相じゃない?」

「誰もくれなんて言ってねぇ」

思わず上げた声に、跡部が不機嫌そうに言った。

「大体、ここにあるのは既製品ばかりだろ。気を遣う必要なんかねーよ」

「そんなものかな?」

「ああ。お前も甘いもん好きだろ。好きなの食えよ」

何で彼が私の好みを知ってるのか。
そんな疑問がちらっと頭を掠めたけれど、それ以上に目の前のチョコは魅力的だった。

「本当?」

さっきまで可哀相とか言ってたくせに、我ながら現金だなぁと苦笑しつつ、近くのソファに座って綺麗にラッピングされた箱を開ける。
中には、様々なコーティングが施された色とりどりのチョコレート。

「わ、美味しそう」

一つ取って口に運べば、上品に広がる甘い味。
思わず頬が緩む。

「美味しい〜」

しばらく無言でチョコを食べる。
そんな私を、跡部はじっと見ていた。

「よくそんなに食えるな」

箱が半分程空になった時、呆れたように跡部が言った。
けれど、幸せ一杯で私の頬は緩みっぱなしだ。

「だって美味しいんだもん〜」

「…そうか」

「それにしてもすごい数。学校中の女の子がくれたみたいだね」

「…そんなことねぇよ」

カタン、と跡部が立ち上がる音がした。

「お前からは、貰ってねぇ」

「へ? 私?」

予想外に近くから聞こえた声に、驚いて顔を上げれば、不満げな表情の跡部と目が合った。

「どうせ、用意してねぇんだろ?」

私の肩を掴み、顔を傾ける跡部。
射抜くような視線に、目が反らせない。

ゆっくりとソファに沈み込む身体。
そのまま近づいていく二人の距離。

「今年は、これで勘弁してやる」

耳元で低く囁くと、跡部は一気にその距離を詰めた。

「―!?」

唇に触れた、熱くて甘い感触。
それが何かなんて、考える間もなかった。

「ふん……甘ぇな」

身体を起こして、そう呟く跡部。
ペロリと指先をなめる仕草に、どうしようもなく鼓動が加速する。

「あ…跡部…?」

呆然と顔を見上げると、跡部はニヤッと笑った。

「来年は、用意しとけよ?」




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