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「うわ、何これ」
放課後、先生に頼まれて足を運んだ生徒会室は、異様な光景を醸しだしていた。
「見て分かんねーのか?」
積み上げられたチョコの山。
その向こうから声がした。
「いや、分かるけど……」
大きく迂回して、声の人物のもとへ向かう。
「今年もすごいね、跡部」
「俺様だからな。当然だろ」
頼まれたプリントを渡しながら、感心半分呆れ半分で声をかけると、跡部は当たり前のようにそう言ってのけた。
けれど、積まれたチョコはよくよく見れば、高級製菓ブランドのものばかり。
そして、間違っても一人で食べきれる量じゃない。
「ねぇ、この大量のチョコってどうしてるの?」
「テニス部の奴らにやってる」
「ええ!?」
「何だよ、文句あんのか?」
「だって…あげた女の子達が可哀相じゃない?」
「誰もくれなんて言ってねぇ」
思わず上げた声に、跡部が不機嫌そうに言った。
「大体、ここにあるのは既製品ばかりだろ。気を遣う必要なんかねーよ」
「そんなものかな?」
「ああ。お前も甘いもん好きだろ。好きなの食えよ」
何で彼が私の好みを知ってるのか。
そんな疑問がちらっと頭を掠めたけれど、それ以上に目の前のチョコは魅力的だった。
「本当?」
さっきまで可哀相とか言ってたくせに、我ながら現金だなぁと苦笑しつつ、近くのソファに座って綺麗にラッピングされた箱を開ける。
中には、様々なコーティングが施された色とりどりのチョコレート。
「わ、美味しそう」
一つ取って口に運べば、上品に広がる甘い味。
思わず頬が緩む。
「美味しい〜」
しばらく無言でチョコを食べる。
そんな私を、跡部はじっと見ていた。
「よくそんなに食えるな」
箱が半分程空になった時、呆れたように跡部が言った。
けれど、幸せ一杯で私の頬は緩みっぱなしだ。
「だって美味しいんだもん〜」
「…そうか」
「それにしてもすごい数。学校中の女の子がくれたみたいだね」
「…そんなことねぇよ」
カタン、と跡部が立ち上がる音がした。
「お前からは、貰ってねぇ」
「へ? 私?」
予想外に近くから聞こえた声に、驚いて顔を上げれば、不満げな表情の跡部と目が合った。
「どうせ、用意してねぇんだろ?」
私の肩を掴み、顔を傾ける跡部。
射抜くような視線に、目が反らせない。
ゆっくりとソファに沈み込む身体。
そのまま近づいていく二人の距離。
「今年は、これで勘弁してやる」
耳元で低く囁くと、跡部は一気にその距離を詰めた。
「―!?」
唇に触れた、熱くて甘い感触。
それが何かなんて、考える間もなかった。
「ふん……甘ぇな」
身体を起こして、そう呟く跡部。
ペロリと指先をなめる仕草に、どうしようもなく鼓動が加速する。
「あ…跡部…?」
呆然と顔を見上げると、跡部はニヤッと笑った。
「来年は、用意しとけよ?」