Short Story #novel5_# | ナノ

CHANGE


2月14日、バレンタインデー。

私の鞄には沢山のチョコレートが入っている。
全部、仲のいい友達や部活の仲間にあげるもの。
特に本命の人はいないけど、やっぱりこういうイベントは参加したい。

ちょっぴり浮かれた気分で登校すると、下駄箱でばったりクラスメイトと会った。

「あ、英二。おはよう」

「おはよ。どーしたの? いつもより早いじゃん」

「なんか、目が覚めちゃって」

「ふーん、そっか」

声に振り返ったのは、菊丸英二。
いつも明るい、男子の中でも仲のいい子の一人だ。

「あ、そうそう。はい、ハッピーバレンタイン!」

綺麗にラッピングした袋を差し出す。
けれど、目の前の男の子は、固まったまま動かない。

「? どうしたの?」

「…これさぁ、友チョコ?」

「うん。英二、甘いもの好きでしょ? だから、はい」

何を聞きたいのか、質問の意図が掴めないまま袋をもう一度差し出すけれど、英二はどうしても受け取ろうとしない。

「…いらない」

「ええ!? 何で?」

長い沈黙の後、告げられた言葉。
あまりに予想外だったため、つい大きな声が出てしまった。

「だって、友チョコなんでしょ?」

「そ、そうだけど…」

当たり前のことを、いちいち確かめる英二。
いつもと違う雰囲気に、つい口ごもってしまう。
英二が何を言いたいのか分からない。

…でも。

「俺、キミのは本命以外受け取るつもりないから」

真っ直ぐ私を射抜く瞳に、

「俺のこと…ちゃんと、男として見て」

少し熱を帯びた口調。

私の中で、確実に何かが変わった瞬間だった。




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