CHANGE
2月14日、バレンタインデー。
私の鞄には沢山のチョコレートが入っている。
全部、仲のいい友達や部活の仲間にあげるもの。
特に本命の人はいないけど、やっぱりこういうイベントは参加したい。
ちょっぴり浮かれた気分で登校すると、下駄箱でばったりクラスメイトと会った。
「あ、英二。おはよう」
「おはよ。どーしたの? いつもより早いじゃん」
「なんか、目が覚めちゃって」
「ふーん、そっか」
声に振り返ったのは、菊丸英二。
いつも明るい、男子の中でも仲のいい子の一人だ。
「あ、そうそう。はい、ハッピーバレンタイン!」
綺麗にラッピングした袋を差し出す。
けれど、目の前の男の子は、固まったまま動かない。
「? どうしたの?」
「…これさぁ、友チョコ?」
「うん。英二、甘いもの好きでしょ? だから、はい」
何を聞きたいのか、質問の意図が掴めないまま袋をもう一度差し出すけれど、英二はどうしても受け取ろうとしない。
「…いらない」
「ええ!? 何で?」
長い沈黙の後、告げられた言葉。
あまりに予想外だったため、つい大きな声が出てしまった。
「だって、友チョコなんでしょ?」
「そ、そうだけど…」
当たり前のことを、いちいち確かめる英二。
いつもと違う雰囲気に、つい口ごもってしまう。
英二が何を言いたいのか分からない。
…でも。
「俺、キミのは本命以外受け取るつもりないから」
真っ直ぐ私を射抜く瞳に、
「俺のこと…ちゃんと、男として見て」
少し熱を帯びた口調。
私の中で、確実に何かが変わった瞬間だった。