the first sunrise of the year
寒い。とてつもなく寒い。
目の前に広がるのは、暗い海。
「なぁ、今日って何か予定あるん?」
「いや…ないけど」
そんな会話を交わしたのが、数時間前。
「せやったら、海行かへん?」
その一言で、私はここに連れて来られた。
けれど冬、しかも夜の海は吸い込まれそうでちょっと怖い。
「寒い…」
「ほれ、飲み物買ってきたで」
「ありがと」
渡されたのはホットココア。
指先から伝わる熱に、心までじんわりと温まる。
「いやー、海やなぁ!」
オサムちゃんは満足げに海を見ている。
なんで、そんなに元気なの。
ただでさえ寒いのは好きじゃないのに、まして海だなんて。
「近くの神社でよかったのに…」
「アホ、学校の奴らおるやろ」
「…分かってるよ。言ってみただけ」
オサムちゃんは大人で、私は子供。
二人並んで歩ける場所は、限られてる。
オサムちゃんがあんまり自然に振る舞うからついつい忘れてしまうけど、それは依然として私達の前にある越えられない壁で。
私、早く、大人になりたい。
隣で一緒に歩けるようになりたい。
周りの目なんて、気にしなくてもいいぐらいに―…
「…ええよ」
目の奥が少しツンとして、それを見られたくなくて俯いていると、コートごと温もりに包まれた。
「お、オサムちゃん?」
背中から伝わる熱に、身体が急に熱くなる。
「急がんで、ええよ」
「え?」
「俺は、ずっと待っとるから」
「オサムちゃん……」
「ほら、見てみ」
言われるままに指の先を見ると、視界が一瞬真っ白になった。
「う、わぁ……」
水平線から昇る朝陽に、空と海の境界がくっきりと浮かび上がる。
夜と朝が混じり合った朝焼けの空。
水面に映る橙色の太陽。
朝陽にきらきら光る砂浜。
世界全てが輝いて見える。
「すごい……」
綺麗、なんて言葉じゃ言い表せない。
ただただ、見つめるしかなかった。
「どや? 気に入ったか?」
「うん!」
「そら、よかった」
オサムちゃんが微笑む。
「お前と見るんが、やっぱり一番やな」
「え?」
さらっと言われた台詞に、顔が赤く染まっていく。
朝陽のせいにしてごまかすことも出来たけれど、いつもより少しだけ素直になってみた。
「オサムちゃん、好き」
「…ああ。俺もやで」
誰もいない元旦の砂浜。
寒いし、眠いし、暗いし…
だけど、想いを言葉に出来るから。
一緒にいることが出来るなら。
暗い海も、寒い朝も、世界全てが輝いて見える。
どうか、今年もその先も。
この手を繋いでいられますように───