Short Story #novel5_# | ナノ

無自覚な自覚


「…………」

ふいに金ちゃんがたこ焼きを食べるのを止めた。

「どうしたん金ちゃん。腹でも痛いん?」

「んー…ちゃうねん」

口に付いたソースを拭ってやりながら聞くと、金ちゃんは首を横に振った。

「痛いんは、胸やねん」

「へ?」

「あれ見とると、何や胸が痛むねん」

…ああ、なるほど。
視線の先を追えば、謙也や千歳と楽しそうに話している彼女の姿。

「ワイ、何かの病気なんかなぁ?」

心底不安そうに俺を見上げる金ちゃん。
きっと、初めての感情に戸惑っているんだろう。

「金ちゃん」

俺は、少し屈んで目の高さを会わせると、柔らかく声をかけた。

「それは、病気やないで」

「ちゃうん?」

「ああ。せやけど原因は、金ちゃんが自分で気づかなあかん」

「どうしても?」

上目遣いで不安そうな表情を見ると、つい教えてやりたくなってしまう。
でも、それは金ちゃんのためにならないから。

「どうしてもや」

「…ならワイ、来年の願い事はそれにする」

少し考えた後、金ちゃんが言った。

大丈夫やで。
きっと後は、金ちゃんの問題やから。

「せやな。頑張り」

そう言って立ち上がり、彼女を呼ぶ。

「ほら、行きや」

上を向かせて、背中を押して。
そのまま駆けていくのはいつもの金ちゃん。
その背中を見送りながら、俺は小さく微笑った。

「全く、手のかかる後輩やで」




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