Short Story #novel5_# | ナノ

言葉と想い


大晦日、夜。

「…どうしようかな」

私は迷っていた。
去年までは友達と行っていた初詣。
でも、今年は皆、彼氏と行くんだろう。
気を遣って誘ってくれた子もいたけど、何だか申し訳なくて断ってしまった。

ついため息をついたとき、携帯が光った。
届いたのは一通のメール。

“今、先輩の家の前”

素っ気ない文面。
でも、送り主なんて、確認しなくても分かる。
私は部屋を飛び出した。

「どうしたの、光?」

慌てて外に出てみれば、いつも通り不機嫌そうな表情の光がいた。

「先輩、今日一人っすか?」

「え…うん、そうだけど」

聞いたのは私なんだけど…

「うわ、正月早々一人とか寂しすぎるっすわ」

それには答えずに、いつも通りの憎まれ口。
しかも、人が一人だっていうのに、そこはかとなく嬉しそう。

「そういう光はどうなのよ?」

それにちょっとむっとしながら言うと、予想外の答えが返ってきた。

「俺は、行く人おるんで」

「え、うそ。誰と?」

こんな時間にここにいるんだから、てっきり光も一人だと思ってたのに…

けれど、光はまっすぐに私を指差した。

「この人」

「え?」

「先輩、どうせ一人やろ?」

「う、そうだけど…」

「なら問題ないっすね。ほな、行きますよ」

「え、あ、ちょっと…」

人も返事も聞かずにさっさと歩き出す。
そのまま強引に私を引く手は、びっくりするほど冷たかった。

「…もしかして、ずっとここにいたの?」

「…低体温なだけっすわ」

そっぽをむく横顔は、少し赤くて。

「先輩」

私を呼ぶ声は、いつもより何だか優しくて。

「来年も、よろしく」

私の熱が、ゆっくりと光に移っていく。
繋がれた手から、鼓動まで伝わってしまいそう。
だから、きっともう気づかないフリなんて出来ない。

少しずつ近づいていく二人の手の温度に、やって来る新しい時間を想った。




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