Short Story #novel5_# | ナノ

waiting time


大晦日。
近くの神社は、参拝客で溢れ返っていた。

「うわ、めっちゃ並んどる」

「そうだね。すごい人」

皆考えることは同じのようで、参道には長蛇の列が出来ている。
半ば圧倒されながら、私達もその最後尾についた。

「謙也は願い事もう決めた?」

「まあ、一応な。お前は?」

鳥居を見上げながらそう言うと、逆に聞き返されてしまった。

「うーん、そうだなぁ… やっぱり、健康第一?」

「白石みたいなこと言うなぁ」

「あはは、確かに」

本当は、もう一つある。

“謙也の、特別になりたい”

でも謙也はきっと私のこと、友達としか見てないから、この願い事は心の中だけで呟くよ。

「お、進み出したで」

少しずつ、少しずつ、人が動き始めた。
それに合わせて、私達も進む。

信じられない程のスローペース。
謙也には、辛いかもしれない。

「謙也、こんなにゆっくり歩いたことないんじゃない?」

ちょっとおどけた風に隣を見上げれば、いつになく真剣な表情と目が合った。
何か、考えこむように眉間に皺を寄せている。

「…俺な、待ち時間とかめっちゃ苦手やねん」

「うん」

「せやけど、今の時間は苦やない。むしろ、もっと長くてもええと思っとる」

「…うん」

「なんでやろな?」

「…そんなの、私が知りたいよ」

「そうやんなぁ…」

…なんで?
今日誘ってくれたのも、友達だからじゃないの?

見つめた横顔は少し赤くて。

参拝客の列が短くなっていくのにしたがって、私達の距離も近くなっていく。

そんな、気がした。




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