Short Story #novel5_# | ナノ

はじまりの予感


「初詣、一緒に行かんね?」

そう誘われたのが、3日前。
待ち合わせの時間は、22時。

夜に会うのは初めてで、何だかそれだけで心が躍る。

大晦日はやっぱりすごい人。
待ち合わせの神社前も、屋台やら客やらで溢れ返っている。

「まだかな……あ、」

雑踏の中でもすぐに見つけられるのは、きっと彼の背が高いからだけじゃない。

「千歳っ」

精一杯伸び上がって名前を呼べば、すぐに駆け寄って来てくれた。

「すごい人やったけん、すまんばいね」

「大晦日だもんねー」

言いながら歩きだそうとすると、するりと手を取られた。
繋がる右手と左手。
ゆっくりと温もりが移っていく。

「はぐれんようにしとかんといかんたい」

「え、でも…」

「俺とお前さんの仲やけん、心配なかね」

「え? え?」

冬なのに、夜なのに、顔が熱い。
真っ赤になった顔を見て、千歳が私の頭を撫でた。

「本当、むぞらしかね」

いつもされていることだけど、一向に慣れなくて、その度に私はドキドキさせられる。
ちょっと、悔しい。
それでも笑ってくれるから、いいかなって思ってしまう。

「…あ、ちょっと待って」

大事なことを忘れるところだった。
今日は大晦日。一年を締めくくる、大事な日。
だけど他に、もう一つ。

「どげんしたね? 忘れ物でもしたとや?」

振り向いた千歳に、私は後ろ手に隠していた包みを差し出す。

「あけましての前に、誕生日おめでとう!」

「…………」

「あ、あれ、千歳?」

「……不意打ちは反則たい……」

ぽかんとした表情の後、消えるように呟かれた言葉。
顔が赤いのは、寒いからじゃないよね?


ねぇ、私、期待してもいい?
来年は、新しい何かが始まるって、期待してもいいのかな?

隣を見上げれば、今日一番の笑顔の彼。

私達は手を繋ぎ直すと、新しい年に向かって歩き始めた。




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