純銀想
冬のある夜。
とめどなく降る雪に、銀色に染まっていく世界。
外をぼんやり眺めていると、携帯が着信の合図を告げた。
「久しぶりやな、莉緒」
「銀ちゃん!」
相手は、幼なじみの銀ちゃん。
テニスの特待生に選ばれて大阪に行ってからは、あまり会えなくなったけれど…
「元気? もう、そっちには慣れた?」
「まあ、ぼちぼちやな」
低くて落ち着いた声は昔と何一つ変わっていなくて、何だか無性に嬉しかった。
「こっちもね、頑張ってるよ。鉄が破動球習得したりとか!」
「ほう」
「銀ちゃんが目標って言ってたもんね」
「せやなぁ…」
いつもの近況報告。
銀ちゃんはいつだって、一つ一つちゃんと聞いてくれる。
「いつか、兄弟対決見られるかな?」
ふと思いついてそう言うと、銀ちゃんは急に押し黙ってしまった。
雪が降る音さえ聞こえそうな静寂。
銀ちゃんは、何か言葉を探しているようだった。
「…そうしたら…莉緒はどっちを応援しはるん?」
沈黙の後、呟かれた言葉。
「…え、」
「鉄か……ワシか」
「銀…ちゃん?」
らしくない少し上擦った声。
受話器越しでも、緊張が伝わって来る。
「…正月には、帰るで」
その言葉の意味は───
返事のタイムリミットまで、あと少し。
雪の降る音を聞きながら、私は携帯を見つめ続けた。