視線はいつも君をとらえる
それは、たとえば昼休みの中庭であったり。
「精市、この花新しく植えたの?」
「そうだよ。どことなく莉緒に似てないか?」
あるいは、放課後の図書室であったり。
「莉緒、見て。新刊が出てる」
「このシリーズ好きだよね、精市」
笑い合う二人の姿は色々なところで見かけられた。幸村部長の隣には、いつも有坂莉緒がいた。部長と関わりのある俺が今まで気づかなかったのが不思議なくらい、二人は親密そうに見えた。
「なぁ、有坂」
「なに?切原くん」
幸村部長とどういう関係?
聞こうとした言葉をぐっと飲み込む。決定的な言葉なんか聞きたくなかった。あの人と俺じゃ、持ってるモノが違いすぎる。
「…これやるよ。ノートのお礼」
代わりに手渡したのはチョコレート。可愛い見た目とふわっとした甘さが女子に大人気だと、丸井先輩が教えてくれた。
「いいの?ありがとう!」
目を輝かせながら箱を受け取った有坂は、ノートならいつでも貸しちゃう!などと言って喜んでいる。早速1粒口に含むと、幸せそうに顔をほころばせる様子に、俺の頬もついついゆるむ。
「そうだ、切原くんにもおすそ分け」
差し出されるままに1粒食べれば、じんわりとした甘さが口の中いっぱいに広がった。
「美味いな」
「でしょ?お気に入りなんだ」
丸井先輩サンキュ。心の中でお礼を言って、舌の上でチョコレートを転がす。ゆっくりと甘さが溶けていく。
しかし、そんな浮かれた気分は続く一言で地に落とされた。
「そうだ、精市に呼ばれてたんだった」
チョコありがとう、と言って去っていく見慣れた綺麗なうしろすがた。分かっていた。お菓子くらいじゃ、彼女は繋ぎ止められない。
「…………」
俺は黙って、口に残ったチョコレートの欠片を噛み砕く。急激に甘さをなくしたそれを飲み込むと、喉にどろりと絡みつく感覚。
今まで気づかなくて当たり前だ。
彼女のうしろすがたを見送った俺は、目が有坂を追うようになったから二人の姿を見つけるんだと、今さらながらに気がついた。